(すりいし・たたきいし・くぼみいし)
【考古】
自然の河原石を素材とし、ハンマーや磨具、加工具として広く使用された道具。自然石のままのものや磨られて形が石けん状になったものもある。特に磨石は、粉砕具である石皿台石類とのセットで機能する石器で、磨石・敲石・凹石の使用痕跡から、加工された対象物や使用方法をある程度推測することが可能となっている。一般に、植物質食糧の加工に用いられたと考えられており、堅果類などの種実の皮むきから製粉、地下根茎類の製粉などの道具として使用された。足助地区の日陰田遺跡では濃飛流紋岩製、西樫尾町大麦田遺跡では凝灰岩製の磨石・敲石が出土しているが、同一資料に敲打痕と磨痕が認められる事例があるので、一つの道具がさまざまな作業に用いられていたことがわかる。また、使用していく過程で道具にも変化が生じていったようである。硬いクルミの殻割りに用いられた凹石はその1例で、松平地区酒呑ジュリンナ遺跡では中央部が凹んだ花崗岩の凹石が出土しており、この部分にクルミなどの木の実を置いて殻を敲き割ったとみられる。縄文時代早期にみられる特殊磨石も、ある一定の使われ方によって独特の形状が顕在化した事例であるといえる。このような磨石や敲石の出土は、植物加工の場であったことを示しているだけでなく、集団の定着性をうかがわせる資料ともなっている。磨石・敲石は石器製作のハンマーとして使用されただけでなく、敲石は剥片を取るための直接打撃、磨製石斧などの敲打整形に、また磨石は赤色顔料精製用の道具としても使用された。弥生時代後期に現れたL字形石杵も顔料精製用の道具の類例である。
『新修豊田市史』関係箇所:1巻108ページ