(せっきせきざい)
【考古】
石器や石製品を作るために用いられた岩石・鉱物。単に石材、原材とされる場合もある。石器の用途・機能や製作する技術によって石器石材は使い分けられた。石鏃・石錐・石匙などの打製で製作されることの多い刺突や切削のための鋭い刃を必要とする石器には、硬質・緻密で貝殻状に割れて鋭利な剝片が得られる黒曜石や下呂石・サヌカイト・溶結凝灰岩・流紋岩・チャートなどが多用されている。一方、打製石斧や礫器などの細かな調整を必要とせず石器自体の重さを利用する石器には、片岩・安山岩・玄武岩・根羽石・ホルンフェルスなどが用いられている。磨製石斧のように打撃・敲打・研磨などの複数の技術を駆使して製作される石器や石製品には、緻密さ・耐久性とともにある程度の剥離のしやすさと研磨に適した軟らかさ・粘り気をあわせ持っている緑色岩類・蛇紋岩などが選択されている。石材に加工が施されることなくそのまま使われることの多い磨石・敲石類には、剥離には適さないが耐久性のある花崗岩・安山岩・砂岩などの礫が多く用いられている。石材として用いられた岩石の産状はさまざまで、河川によって運搬された河床や段丘の地層内の円礫・亜円礫、あるいは火山岩原産地の岩脈から剥落した転石である角礫が利用されている。黒曜石・下呂石・サヌカイトなどの火山岩は、供給された原産地が特定されているものが多い。市域で出土している猿投地区の万加田遺跡や松平地区の三斗目遺跡などの石器はいずれも遠隔地で産出する石材で作られている。それらの石材の有無や時期別使用割合の多寡には、原産地との関係の濃淡、石材入手の手段などの、それぞれの時期における地域間交流や交易の様相が反映されている。市域で出土する黒曜石製石器には各時期を通じてほとんどが中部高地の星ヶ塔産の黒曜石が利用されていて、わずかに同じ中部高地の小深沢産のものや伊豆諸島の神津島産のものが含まれている。岐阜県下呂市に所在する湯ヶ峰を原産地とする下呂石は、愛知県内で後期旧石器時代から石器石材として用いられてきた。とくに縄文時代後期後半以降は、石鏃などの小形打製石器の主体となった。石材としては飛騨川から木曽川に転石した円礫と原産地付近で採取される角礫がある。前者では川原で採取後に北西あるいは西から運ばれてきた経路、一方後者では原産地付近で採取された後に北から運ばれてきた経路が想定される。市域の遺跡では円礫・角礫ともに確認されていて、どちらの経路も利用されていた。
『新修豊田市史』関係箇所:1巻110ページ、18巻696・715・737ページ