(ちょうこうじおだのぶながぞう)
【美術・工芸】
縦69.8cm、横31.1cm、掛幅装、紙本着色。戦国時代の終結に向けて大きな功績のあった織田信長(1534~82)の肖像画である。信長の姿を伝える肖像画の中ではその真の姿に最も近いとされ、威儀を正した肖像画のお手本というべき作である。画面上方には、織田信長が天正10(1582)年6月2日に他界したことが記される。画面下方の墨書には、この肖像画が長興寺に寄進された経緯が記される。それによれば、家臣で長興寺を再興した余語(与語)久三郎正勝が、信長の恩に報いるために信長の一周忌にあたってこの図を長興寺に寄進したというのである。この記述から、本図の制作は信長の没後間もない時期のものとわかる。上げ畳に座した姿に描かれる信長は、威儀を正した姿に描かれる。端正な表情に描かれる面貌部は実に丁寧な描写である。武将肖像画としてのみならず、すべての肖像画のなかでも第一級の質をもつものと高く評価される。制作者としては、掛幅の背面に「狩野」の墨書と「元秀」の朱文壺印があり、狩野永徳の弟狩野元秀(1551~1601)と判明する。元秀の画風は永徳のそれをよく受け継いだもので、信長の安土城建築に際し永徳が担当したその障壁画制作にも加わっている。信長との接点もあって、元秀が信長の肖像を制作することになったのであろう。制作後400年以上を経た絵画作品としては良い状態に保たれている。国指定文化財。
『新修豊田市史』関係箇所:21巻214ページ
→ 余語正勝