(ちょぞうけつ)
【考古】
縄文時代の土坑のうち食料が貯蔵されていたものをいう。出土する食料の大半はクリやクルミ、ナラ・クヌギ・カシ・シイなどドングリ類の果皮のかたい堅果類であることから、ドングリピットと呼ばれることもある。堅果類のほかにヤマイモなどの根茎類も貯蔵された可能性があるが、遺物として残存していることはほとんどない。縄文時代の貯蔵穴は全国各地で確認されていて、市域でも高橋地区の寺部遺跡と千石遺跡、上郷地区の水入遺跡、足助地区の日陰田遺跡、稲武地区の中村遺跡などで検出されている。中村遺跡では南西区で4基、北東区で4基の計8基の貯蔵穴が確認されている。南西区の貯蔵穴には、直径65cmほどの円形で75cmほどの深い貯蔵穴と、直径100cmほどの円形で深さ20cmほどの断面形が皿状をした浅い貯蔵穴とがある。深い貯蔵穴の断面形は底部近くになって広がるフラスコ状を呈している。2つの貯蔵穴の間には長さ70cm、高さ30cmの仕切り板と思われる木製品があり、埋土の上面や周辺から径15~30cmの礫が出土している。礫は作業台として用いられたものと考えられている。貯蔵穴の中からは、木片や敷き詰められた木の葉などとともに、食用とするにはアク抜きと水さらしを必要とするコナラがその9割近くを占めている大量の堅果類が出土している。北東区でも深いものと浅いものが一組となった2基の貯蔵穴が確認されている。いずれも地下湧水が流れる場所に作られていて、水さらしのための施設であったと想定されている。寺部遺跡ではおよそ10m×10mの範囲から、後期前半を主体とし中期後半~後期初頭のものや晩期後半のものまである数十基の貯蔵穴が検出されている(写真:08BSK12)。遺構の切り合いと出土した土器の接合状況から最大で6基が同時に存在していたとされる。これにより、地下水が湧出する湿地の同じ場所で、貯蔵穴の使用と廃絶が繰り返されていたと推測されている。出土した堅果類にはアク抜きと水さらしが必要なトチノキやアベマキ・ナラガシワ・コナラ、水さらしの必要なアカガシ・ツクバネガシ、そのまま食用にできるクルミ・オニグルミ・スダジイ・イチイガシがある。
『新修豊田市史』関係箇所:1巻87ページ、18巻56ページ