(とうかいきゅうりょうゆうすいしっちぐん)
【自然】
矢作川西方の丘陵地に存在する矢並湿地・上高湿地・恩真寺湿地の3つの湧水湿地群の総称。平成24(2012)年にラムサール条約に登録された。矢並湿地は、豊田市役所本庁舎の西およそ5.5km付近、上高湿地と恩真寺湿地は、その4.5kmほど北東に存在する。標高は、矢並湿地が120~130m、上高湿地と恩真寺湿地は190~210mほどである。いずれも基盤は領家花崗岩であり、その砕屑物が堆積した谷底や、土砂移動の激しい谷壁に成立している。周囲の森林を含めた登録面積は、矢並湿地が5.13ha、上高湿地が5.45ha、恩真寺湿地が11.92haで、すべて愛知高原国定公園の特別地域である。矢並湿地と恩真寺湿地は2か所、上高湿地は3か所の小湿地を内包している。水質は、すべての湿地を通して、ECが3.2~5.8mS/m、pHが6.7~7.5であった。
動植物相 動物種では、14分類の哺乳類、52種の鳥類、10種の爬虫類、9種の両生類、2種の淡水魚類が確認されている。この中には、カヤネズミ、アカハライモリ、ヤマアカガエル、ホトケドジョウ、ヒメタイコウチのような希少種が含まれる。一方で、アライグマ、ウシガエルのような外来種も確認されている。植物種では460種以上が確認されている。この中には、地域固有・準固有種である東海丘陵要素植物7種(シデコブシ、ヘビノボラズ、ミカワシオガマ、シラタマホシクサ、トウカイコモウセンゴケ、ミカワバイケイソウ、クロミノニシゴリ)のほか、サギソウ、トキソウ、ムラサキミミカキグサ、ミコシギクのような希少種が含まれる。地域固有種や希少種が集中して分布することから、東海丘陵湧水湿地群は、ラムサール条約の登録基準のうち、「1.各生物地理区内で、代表的、希少又は固有な湿地タイプを含む湿地」と「3.各生物地理区の生物多様性を維持するのに重要と考えられる湿地」に該当している。
植生 湿地内の植生は、イヌツゲやノリウツギ、シデコブシなどの木本種が優占する湿地林と、草本植生が卓越する湿性草原とに大別される。湿性草原には、ヌマガヤの優占する高茎タイプと、イヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ミカヅキグサなどのミカヅキグサ属、シラタマホシクサ、シロイヌノヒゲなどのホシクサ属が優占する低茎タイプがあり、さらにオニスゲやチゴザサの優占する植分も存在する。東海丘陵湧水湿地群は全体として湿性草原を主体とするが、上高湿地の通称「シデコブシの湿地」は全体が湿地林であり、また、そのほかの湿地も縁辺に湿地林が付随するケースがある。
保全・活用 東海丘陵湧水湿地群の周囲は里山であり、以前は薪炭や飼葉の採取が行われていた。しかし、それらの利用が停止した近年では植生遷移の進行によって湿地面積の縮小が危惧されている。矢並湿地保存会・上高湿地を守る会・山中町自治区(恩真寺)が、草刈りなどの保全作業を行っている。さらに、日を限った一般公開や観察会の開催、近隣小学生の環境学習への利用といった活用も進んでいる。
『新修豊田市史』関係箇所:23巻326ページ
→ 湿地の植物