中村遺跡 

 

(なかむらいせき)

【考古】

稲武地区の桑原町から武節町にかけて広がる縄文時代を中心とする遺跡で、ドングリの貯蔵穴が発見されたことで著名となった。黒田川右岸の稲武地区の中心街のある盆地中央部の標高490~510mの河岸段丘上に立地している。遺跡は、すでに昭和12(1937)年頃から知られていたが、『北設楽郡史』作成に伴い昭和27年以降に進められた分布調査で、その内容が詳細に知られるようになった。縄文時代前・中・後期の土器と弥生時代前期の条痕文土器、石鏃・石錐・スクレイパー・打製石斧・石錘・石棒などの石器・石製品が採集されて稲武中学校に保管されていたが、それらの資料は昭和43年の火災によって焼失してしまった。平成3(1991)年3月、遺跡の中央部を流れる桑原沢の西側で稲武町教育委員会による発掘調査が行われ、縄文時代前・中期の土器片と剥片、弥生時代の土器片などが出土した。平成5年11月に遺跡中央部の桑原沢東岸から多量の堅果類が出土したため、平成5~6年にかけて発掘調査が行われ、湿地性(低地性)の貯蔵穴が8基以上検出された。埋土内から木片・木葉とともに堅果類が出土している。また、貯蔵穴内埋土の上面で大型の礫が確認され、ピット外には15~30cm大の礫が6個弧状に並べられていた。これらの礫は作業用の台石と推定されている。貯蔵穴の間で仕切り板が確認されたところもあり、貯蔵穴内からは後期後葉の土器が出土している。また、ドングリピット1と名付けられた貯蔵穴から出土した堅果類種実は、コナラが88%を占め、他にナラガシワ・クヌギ・アベマキがごく少量見られる。なお、平成5~6年の調査は現在の稲武福祉センターの建設に伴って行われたものであったため、隣接して設置された道の駅の名称は「どんぐりの里いなぶ」となった。

『新修豊田市史』関係箇所:1巻86・106・175ページ、18巻598ページ