『浪合記』

 

(なみあいき)

【古代・中世】

後醍醐天皇の皇子である宗良親王の子として造形された尹良(ゆきよし)親王と、その子の良王二代の伝承を物語る作品。尹良も良王も実在は確認できず、その物語も実際の歴史とは異なる。宗良親王は実在した人物で、遠江、信濃や関東などで南朝の軍事的中心として活動し、実際に三河を訪れたことはなかったようであるが、足助氏の一部とも連絡があった。伝承の舞台は信濃から三河の足助を経て、尾張の津島へとつながる地域に設定されているのはそのためであろう。尹良は信濃から三河に向かう途中で非業の最期を遂げる。その石塔が信濃の並合(なみあい)(長野県阿智村)にあったとされる。また、良王も信濃から尾張の津島に向かおうとする途中、並合の地で野武士に襲われたものの、三河に入り、津島へと潜行して、地元の有力者である大橋家と関わっていく。書名は、この並合の地名から来ているのであろう。こうした各地に関わる伝承が、現在伝わるような形にまとめられていったのは、戦国時代に入る頃であったと思われる。

『新修豊田市史』関係箇所:2巻302ページ、6巻497ページ