(はなのとう)
【民俗】〈年中行事〉
5月初旬に神社や寺、お堂などで、模型や人形などを使って田植えや稲刈り、畑作や果樹栽培、収穫祭などの風景をジオラマのように飾り、農事の吉凶を占う行事。ハナノトウ(花の頭・花の塔・花の撓)、オタメシ、豊年祭などといった。5月8日の熱田神宮(名古屋市熱田区)豊年祭の「花のとう」の飾りを見に行き、それを再現するかたちで行われる。市域では、樹木(挙母地区)の水音寺で5月8日と9日、保見(保見地区)の射穂神社と九久平(松平地区)の松生島弁財天(写真)で5月9日と10日、挙母神社境内の子守薬師で5月10日から12日、四郷(猿投地区)の雲龍寺で5月13日から15日、寺部(高橋地区)の守綱神社では5月14日に行われた。熱田の花のとうの飾り付けは左右に分かれており、向かって右が田所で、田植えや稲刈り、稲の生育状況や収穫の様子が、左が畑所で、畑の作物の生育状況の様子が、農作業をする人形や作物、道具、蔵などのミニチュアを使って示される。また、上部には赤や白、青などの服を着ている人形が3体飾られる。各地の役員はこの飾りの絵図を入手したり、飾りの様子を丁寧に観察したりして地元に戻り、再現して飾った。これをみた人は、上部の人形の服の色や農作業の様子、蔵に稲俵がいくつ積んであるかなどの収穫の様子、畑所の作物の様子などを参考に、それぞれの心の中で、「お照りだね」「雨が多い」「豊作だ」など、天候の予想や作付けの良し悪しを判断した。この行事には農家以外の人も連れだって足を運んだもので、露店が出たり、茶会やくじ引き大会が行われたりして賑わった。寺部では露店で苗物がたくさん売られたので、人々はオタメシをみてから苗を買った。地元で行事を行わない地域の人も近隣で行っているところへ出かけ、下和会・桝塚東(上郷地区)などでは岡崎市矢作の誓願寺のハナノトウを見に行き、露店でナスやカボチャなどの苗を買ってきたという。〈年中行事〉
『新修豊田市史』関係箇所:16巻648ページ