ボラ(Bora)

 

(ボラ)

【自然】

冬季、ディナールアルプスからアドリア海に吹き下りる強く冷たい局地風で、アドリア海の島々の風上側では植栽が育たず、石灰岩がむき出しになっている。クロアチアの谷の吹き出し口では、交通障害を防ぐための暴風壁が設けられているほどである。また、内陸のアイドフシチーナ盆地では、強風による屋根を守るための石が載せられている。ボラには高気圧性と低気圧性に分けられるが、我が国のおろし風と同じく発達した低気圧の通過に伴うことが多い。したがって、半球規模での寒帯前線ジェット気流の3波波動によるもので、アドリア海のボラの吹走時には日本列島の太平洋側でおろしが吹いているとの研究がある。ボラの吹き出しに伴い、ディナールアルプスの山頂付近にはフェーンマウワー(吊るし雲)が現れることが多いが、伊勢平野、および濃尾平野に吹くおろしの吹走前には鈴鹿山地、および伊吹山地でもフェーンマウワーが現れる。これは、いわゆる風上側の大気が強風で押し上げられて飽和状態に達して形成される雲列で、局地強風が吹き出す前触れでもある。ボラとおろしの共通点は、強く冷たい風で体感温度が極端に下がることであるが、フェーン現象を伴っていることも多い。我が国では、おろしが吹き始めよりも気温が下がればボラ的おろし、上がればフェーン的おろしに分類されている。ボラ的おろしは、風上側の山地斜面が急峻で大気を堰き止め、山頂の大気が直接吹き下りる場合に起こる現象で、アドリア海のボラはいわゆる「堰き止めボラ」に類するものである。伊勢平野に吹く鈴鹿おろしは吹き始めがフェーン的おろしであるが、その後ボラ的おろしに変わる傾向がある。また、伊吹おろしはフェーン的おろしであることが多い。しかし、フェーン現象を伴っていても体感として暖かく感じないのは、山越え気流の風上側の大気温度が低いからである。濃尾平野に吹く伊吹おろしは低気圧の中心が三陸沖に位置していて気圧傾度風向が北北西から北西であり、その風道にあたる刈谷市、および豊田市の洪積台地上では、強く冷たい乾燥した風を利用した切り干し大根の生産に役立てている。

『新修豊田市史』関係箇所:23巻95・100ページ