「三河記」

 

(みかわき)

【古代・中世】

江戸時代に記された松平氏や三河時代の徳川家康のことを記した史書。「三川記」「参河記」「参川記」とも記す。現在、少なくとも「三河記」80数本の写本が確認されるが、少なくとも10数種類の同名異本が存在する。したがって、「三河記」という定まった正本はなく、これら諸本は、「先祖ヨリ三州御在城之内ヲハ印ス故ニ三河記ト号ス」(西尾市岩瀬文庫本奥書)とあるように、松平氏の三河時代の内容を記した史書をそれぞれ「三河記」と名付けたのであろう。「三河記」には、「堀正意本」「渡辺三河記」など伝来系統や、「御庫本」「官本」など所蔵機関の名称が付されるものがあり、写本の区別がすでになされており、異本の概要を記した「三河記諸本考異大概」が江戸後期に著わされている。なお、江戸幕府は天和3(1683)年、官撰事業として「三河記」の定本作成に着手し、それを『武徳大成記』として完成させた。全国に残る「三河記」の諸本は、形態、冊数、作成年代、著者、伝来などそれぞれ異なるが、成立的には江戸時代前期のものが多い。記載内容はさまざまであり、①親氏から家康までの徳川氏創業史、②松平清康以降の創業史、③家康一代記、④三河一向一揆や長篠の戦いなど特定事件を主題とした記録、⑤『三河物語』『岡崎物語』『三遠平均記』などの史書の別称、などに大別できる。諸本の内容は、『三河物語』や「松平記」など、他の徳川氏創業史や諸記録などを参照したものがある一方、家伝などから独自に作成されたものもある。また、諸本間では部分的に一致する箇所も多々みえる。『新修豊田市史6 資料編古代・中世』では、①の市域に関する徳川氏創業史を記した「三河記」を掲載するため調査を行い、①に関する写本27点、13種類の異本の存在を確認した。そのうちから「関野済安識語本」「関野済安見聞物語本」「御庫本」「官本」「西尾市岩瀬文庫本」「徳川林政史研究所本」「愛知県図書館本」を抄録した。

『新修豊田市史』関係箇所:6巻496ページ