(みかわのくににしかもぐんし)
【近代】
西加茂郡長を務めていた田中正幅が編集し、明治25(1892)年7月に刊行した郡誌である。この書には帝国大学教授で、当時を代表する史学者であった重野安繹が題言「詢古質今」を寄せた。田中は明治政府が編さんした『大日本国誌 安房国』の構成にならって項目を立て、古書旧記、伝承を参考にし、また郡の現状を踏まえて本書を編集した。明治中期の愛知県を代表する郡誌である。田中は諸書を比較考証して、確実な事柄を採用し、系譜や縁起など虚誕な説を排する姿勢で編集に臨んだ。内容は上中下の3編からなり、上編は郡の地理的な要素や特徴、郡行政の歴史的変遷、中編は郡の行政・産業・人口・租税・風俗・宗教・旧蹟などを記述した。下編は郡の著名な歴史的人物、災害・事件などで構成された。田中が郡長として推進した文明化政策についても記述があり、道路や用水の新設、衛生対策などによる郡の近代的発展の様相を知ることができる。
『新修豊田市史』関係箇所:4巻358ページ
→ 田中正幅
【考古】
『三河国西加茂郡誌』のうち、「古墳墓」には殿貝津古墳・大将塚をはじめ39基の古墳・塚など、「旧跡」には挙母城跡・古鼠坂古戦場はじめ42か所の城跡・陣屋跡・廃寺跡・古戦場などが記載されている。同書は明治期における市内の遺跡の状況を伝えるほぼ唯一の記録であり、考察も加えられているため、市内における考古学研究草創期の資料として位置付けられている。中でも、明治18(1885)年に伊保堂古墳(根川1号墳)の石室から多数の土器をはじめ、馬具・鉄鏃・耳環や直刀3 点、玉類90点などが出土したとする記録は、この古墳の重要性を伝えており、その後の昭和22(1947)年と平成27(2015)~28年に実施された再調査の際の基礎資料となった。
『新修豊田市史』関係箇所:19巻466ページ、20巻759ページ
→ 根川古墳群