(やまのかみ)
【民俗】〈諸職〉
山に宿る神。山間地域では山の神は一年中、山にいるとされるが、山に近い平野部の地域では、稲作の開始前に里に下りて田の神になり、稲刈りが済むと山に帰るとされる。市域山間部では山中・山麓、屋敷近くにまつり、「山の神」と刻む石碑や自然石、石祠・木祠・瓦製祠などが置かれた(写真:藤岡地区)。「山の講(ヤマノコ)」は山の神の祭りで、春(2・3月)と秋(11月・12月)に行われた。枝打ちや下草刈り、間伐・伐採・割木作り・炭焼きなどの山仕事に従事する林業関係者は、山の神への信仰が篤く、山の講では山仕事を休み、山仕事の元締めや庄屋(山仕事の監督)が人夫に御神酒を振舞った。大平(小原地区)では、山の講には山の神の前で火を焚き、アズキメシと焼き魚を供えた。山の神は女性で、男に来てほしいものとされ、女性が参ることは禁じられていた。山の講には魚がつきものとされるが、男性はおかずを作れないので焼き魚を供えたという。山の講の日に山に入ると怪我をするとか山が荒れるという伝承は日本各地にあり、市域山間部でも確認できる。連谷(足助地区)では山の講の日に山が荒れることをヤマノコアレ(山の講荒れ)、綾渡(足助地区)ではヤマノカミアレ(山の神荒れ)といった。夏焼(稲武地区)では山の講の日は山の神が山を見回り、山に入ると木に数え込まれてしまうとされ、山仕事はしなかった。山の講以外でも山の神はまつられ、正月2日から5日頃までに行われる仕事始めには、冬の山仕事(間伐や割木作り、炭焼きなど)の真似事をするというところが多い。立岩(下山地区)の仕事始めでは、一家の主人が窯の前で山の神をまつってその年の山仕事の無事を祈り、その後に窯に火をつけて炭焼きをした。小原北ではヤマハジメ(山始め)といい、山仕事の元締めが山仕事の無事を山の神に祈願した。山の神には御神酒1升とスルメを供え、お下がりを人夫同士で飲食した。ヤマハジメには仏滅を避けることもあった。〈諸職〉
『新修豊田市史』関係箇所:15巻39ページ
→ 山の講