(ゆうすいしっち)
【自然】
地中からにじみ出す水によって形成され、泥炭の堆積がないか、ごくわずかである(鉱質土壌を持つ)湿地である。一般に、数m2から大きくても数千m2程度であり、1haを超えるものはごく稀である。湧水の水質をみると、ほとんどが100µS/cm未満と貧栄養で、pHは4~7程度と酸性に傾く傾向がある。
分布 西日本暖温帯に広く分布するが、伊勢湾周辺や大阪湾~瀬戸内海周辺の丘陵地・台地には特に集中してみられる。湧水湿地研究会によると、長野県南部や静岡県西部を含む東海地方には 1600 か所以上の湧水湿地が確認され、このうち 142 か所が市内で確認されている(一部泥炭の堆積した湿地を含む)。市内でも、中心部を囲む高橋・石野・挙母(西部)の各地区と、藤岡地区の中部から南部にかけての地域に特に集中してみられる。これらの立地は大半が東海層群の砂礫層ないしは花崗岩地となっており、これは東海地方全体の傾向と同様である。保護されている湧水湿地は、東海丘陵湧水湿地群のほか、亀首湿地・御船湿地(シラヒゲソウ自生地)などがある。
植物相 東海地方の湧水湿地とその周辺には、東海地方の固有種・準固有種が集中的に確認され、これらを植田邦彦は「東海丘陵要素植物」と命名した。豊田市に分布するものとしては、ミカワシオガマ、ヒメミミカキグサ、シデコブシ、シラタマホシクサ、ミカワバイケイソウ、ヘビノボラズ、トウカイコモウセンゴケ、クロミノニシゴリ、ウンヌケ、フモトミズナラ、サクラバハンノキ、ハナノキが挙げられる。ほかにも、湧水湿地には分布上、あるいは生態上特異な植物種がみられる。例えば、北方系で低所では珍しいウメバチソウ、イワショウブ、ミズギク、貧栄養な環境に適応するために昆虫を捕捉するモウセンゴケ、イシモチソウ、ミミカキグサ、ムラサキミミカキグサなど食虫植物が挙げられる。
植生 湧水湿地の植生は、湿性草原と湿地林の大きく 2 タイプがある。これらは湿地の立地する地形と関係がみられる。前者は谷壁斜面、後者は谷底面にそれぞれ成立する湿地に多い。湿性草原は、ヌマガヤ、イヌノハナヒゲなどのミカヅキグサ属、シラタマホシクサなどのホシクサ属が優占することが多いが、日照の少ない場所ではオニスゲなどのスゲ属、富栄養化が進んだ湿地ではチゴザサが優占する場合もある。湿地林は、シデコブシのほか、ノリウツギ、イヌツゲなどが中心となる場合が多い。
動物相 湧水湿地には、希少な動物種もみられる。昆虫類ではハッチョウトンボ、ヒメタイコウチ、ヒメヒカゲ、魚類ではホトケドジョウ、両生類ではヤマトサンショウウオなどが挙げられる。これらの移動能力は乏しくて、湿地の環境に強く依存している。また、イノシシ、ニホンカモシカといった哺乳類、ヤマドリ、シロハラといった鳥類も泥浴び場や水場として利用している。
『新修豊田市史』関係箇所:23巻326・368ページ
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