この流線網図から読みとるかぎり、台地の高いところから谷筋の低みにむかって流線が走っていることから、鶴ケ島周辺の不圧地下水は、ほぼ地形なりに動いているといってよい。しかし、流線の密度、流線の出現・消滅などに注目してみると、地下水の動きはかなり複雑である。
たとえば、流線の密度が高く間隔の狭いところは、概していえば地下水の動きが早いところであるし、逆に密度が低く間隔の広いところは、地下水の動きの遅いところである。もちろん地下水の動きはきわめて遅く、一日せいぜい数メートルをこえないのが普通である。流線の出現するところは、地下水が補給されるところ―かん養区―で、消滅するところは、地下水が排出されるところ―流出区―である。以上のような地下水の動きの有様をとりまとめて「地下水流動系」と名づけ、そしてかん養区から流出区までの範囲を「地下水域」と呼んでいる。
このようにみると、「おかねが井戸」を含む上流湧水帯は、日高方面にかん養区をもつ地下水域の流出区であり、雷電池を含む下流湧水帯は、上流湧水帯より下流にある台地にかん養区をもつ地下水域の流出区に相当する。この流線網図でみるかぎり、いずれの湧水帯のかん養区も台地にかぎられ、高麗川や小畔川などの水が台地の下をとおって湧水となることはまず考えられない。
湧水のかん養区が台地にかぎられることは、湧水の源は台地に降る雨だけであって、長い日照りがつづけば、当然のこととして、湧水量も減っていくことになる。しかし、「まんざいろく」などの下流湧水帯の水が比較的枯れにくいこと、また、あとがら述べるように地形の面から見ても、二列の湧水帯がならぶのは珍しいことなど、鶴ケ島の湧水群には、解明しなければならない謎が沢山残されている。
この疑問を解きほぐすためにも、つぎに鶴ケ島の地形と地下の地質状況に立ち入らざるをえない。