平坦と思われる鶴ケ島にも、いくつかの坂道がある。
車を運転しているかぎりではあまり気がつかないが、サイクリングでもすると結構急な坂道があちらこちらにある。町内をほぼ東西につらぬく越生―川越街道を自転車で走ってみると、この道沿いにも越えなければならないいくつかの坂道がある。脚折(すねおり)の才道木(さいどぎ)の坂、藤金の長竹の坂などがそれである。
大正のはじめ頃、越生と川越を結ぶ唯一の交通機関は、〝テト馬車〟と呼ばれる乗合馬車だけだった。これらの坂道は〝テト馬車〟ばかりでなく、沢山の荷物をのせた手車や荷馬車にとっても、たいへんな難所だった。才道木の坂をのぼりつめた越生発の〝テト馬車〟はそこで新しい馬に取りかえて再び川越にむかったという。今は工場や住宅に囲まれている長竹の坂も、かつてはうっそうと茂った樹木でおおわれた昼でも暗い砂利道であった。明治のはじめ頃、ここに刺客がでたということもあって、一人歩きには不安を覚えさせる坂道でもあった。