4 植林で維持されてきたアカマツ林

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 雑木林を代表するもう一つの林は、アカマツ林である。丘陵地や低山にかけての斜面の上部は、アカマツ林になっていることが多い。このような場所のアカマツ林では、アカマツが伐採されても、種子から発芽したアカマツの稚樹が成長し、再びアカマツ林が成立し、アカマツ林が持続している。

アカマツ林

 斜面の尾根に近い上部は、一般に土壌が浅く、土壌は乾燥しやすく、貧栄養である。このため広葉樹の成長はおそく、この間にアカマツが発芽、成長し林を作っている。
 鶴ケ島に見られるアカマツの平地林の場合は、砂礫質の土壌の場合を除けば、人工的なアカマツの植林によって林が成立している。太田ヶ谷のアカマツ林で見られるように(表―6)、アカマツ林の林内には、多数のコナラが亜高木層を優占し、生活している。アカマツ林が伐採され、アカマツと共にコナラが伐採されても、土壌が深い平地林では、コナラは切株から新しい幹を萌芽再生し、急速に成長していく。アカマツには萌芽再生力がなく、種子から発芽したアカマツは、コナラに負けて成長しない。平地のアカマツ林では、伐採したままではコナラ再生林に替ってしまい、アカマツ林は持続しない。植林や下刈りなどの人工的な管理によってアカマツ林は成長し、持続している。
表1-6 アカマツ林の組成
太田ヶ谷
高木層高さ(m)11
植被率(%)80
亜高木層高さ7
植被率76
低木層高さ1
植被率1
草本層高さ0.4
植被率50
出現種数55
高木層アカマツ5
エゴノキ3
ネムノキ1
亜高木層コナラ4
カキノキ
ネムノキ1
ヒノキ2
イボタノキ1
低木層コナラ
ゴンズイ
クリ
ヤマノイモ
ネムノキ
アオハダ
草本層ヤマコウバシ1
ホソバヒカゲスゲ2
サワフタギ1
ワラビ1
イチヤクソウ
ササクサ
ガマズミ
タチシオデ
コマユミ
ツルウメモドキ
ヤマノイモ
コチヂミザサ
ヤマツツジ
ウメモドキ
エノキ
アオツヅラフジ1
ヤマウルシ1
カマツカ
タラノキ
ネムノキ
レンゲツツジ1
アズマネザサ2
イヌツゲ
サルトリイバラ
ノガリヤス2
ミツバツチグリ
シラヤマギク1
ノブドウ
ヒメヤブラン2
ノイバラ
アシボソ
ヘクソカズラ1
ヒサカキ
タチツボスミレ
クサボケ
オケラ
アキノキリンソウ1
エビヅル
ニガナ

 鶴ケ島に見られるアカマツの植林は、三ツ木、太田ケ谷、上広谷に多い。これは第一章で述べられている上流湧水帯と、下流湧水帯の間の地域に当たっている。かつて大規模なアカマツ林があった関越自動車道インター附近もこの湧水帯の間に入っている。その理由は詳細に検討しなければわからないが、いずれにしても、第一章にあるように、入間川及び高麗川の二重の扇状地に乗った鶴ケ島の台地は、乾燥しやすい貧栄養な立地で、アカマツ林の造成、経営に適しているのであろう。
 このような土地は、水田用の採草地として利用されたり、経済性のより高い樹林へと造林が行われたりした。この造林は恐らくアカマツ林であろう。その後アカマツ林内にコナラの種子(ドングリ)が動物などによって運ばれ、下層にコナラが優占している現在のアカマツ林ができたのではないかといわれている。
 アカマツは樹木の中でも、最も十分な陽光を受けないと生活できない陽樹である。アカマツ林内にアカマツの若木や幼樹がないばかりでなく、下刈りなどの管理が行われずに放置されると、コナラの勢力が増し、やがてはコナラ林に移り変わってしまう。さらにずっと将来の問題としては潜在的な自然植生であるシラカシ林へと推移していく。
 アカマツ林の維持には多くの管理が必要であり、その姿を次第に変えている。アカマツ林は日本の古来から親しまれてきた景観であるとともに、特に鶴ケ島の町名の由来が、松に飛来した鶴を描いていることからしても、平地林としてのアカマツ林の一部を残していきたいものである。扇状地を台地とした鶴ケ島の地形、地質と、その上に成立している植生の特徴を、アカマツ林は最もよくあらわしているように思われる。