5 ヒノキが優勢なスギ・ヒノキ植林

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 スギやヒノキは、最も経済性の高い用材として全国各地に広く植林されている。鶴ケ島のスギ・ヒノキ植林は、飯盛川及び大谷川に沿った台地上に広く見られる。その多くは、古くからの集落に近い地域に見られ、その他神社周辺にも点々と見られる。
 植林は、スギに比べてヒノキの植林地が多く、ヒノキが優占している。ヒノキは土壌の浅い乾性地にも強い樹種であり、鶴ケ島の土地的条件を反映している。
 スギ・ヒノキ林は、高さが二〇メートルに達するものもあり、発達した低木層を持った林も見られる。林の構成種は表―7のとおりであるが、低木層や草本層の中に、高木となるシラカシ、アラカシ、ヤブツバキの若木や、アオキ、ヒサカキ、ヤブコウジ、マンリョウなどの低木、ヤブラン、ジャノヒゲ、テイカカズラ、ベニシダなどの草が数多く見られる。これらの植物は、鶴ケ島の台地上の潜在的な自然植生と考えられているシラカシ林の構成種であり、いずれも照葉樹や常緑性の草本で、耐陰性も強い。
表1-7 スギ―ヒノキ植林組成
五味ケ谷高倉南五味ケ谷
高木層高さ(m)1820
植被率(%)9090
亜高木層高さ7128
植被率309010
低木層高さ31.53
植被率602530
草本層高さ0.30.50.3
植被率153080
出現種数446285
高木層ヒノキ55
スギ1
コナラ1
ケヤキ1
アカマツ1
モウソウチク
亜高木層ヒノキ14
スギ31
コナラ
ヤマウルシ
ゴンズイ
リョウブ
アオハダ
エゴノキ
モウソウチク
シラカシ1
低木層ヒノキ2
スギ
コナラ1
ケヤキ
ヤマウルシ
ゴンズイ
リョウブ
ヤマツツジ
ウワミズザクラ
ムラサキシキブ
コマユミ
エノキ
ヤマコウバシ
ムクノキ2
トコロ
ツルウメモドキ
サンショウ
タラノキ
サワフタギ
ノブドウ
ミツバアケビ
スイカズラ
ヒサカキ41
サルトリイバラ
イヌツゲ
ヘクソカズラ
シラカシ21
アオキ1
シュロ
アラカシ
チャノキ
ナンテン
マンリョウ
アズマネザサ
ニワトコ
アキグミ
草本層コナラ
ヤマウルシ
リョウブ
アオハダ
ヤマツツジ1
ウワミズザクラ
ムラサキシキブ
コマユミ
エノキ
ヤマコウバシ
ムクノキ
トコロ
コチヂミザサ1
ツルウメモドキ
ナツヅタ11
エゴノキ
ハリガネワラビ2
タラノキ
サワフタギ
ノブドウ
タチシオデ
ヘビノネゴザ1
ミツバアケビ
コウヤボウキ
アオツヅラフジ
ハエドクソウ
ホソバヒカゲスゲ1
スイカズラ
ヒサカキ1
サルトリイバラ
イヌツゲ
ジャノヒゲ12
アマチャヅル2
ヘクソカズラ
イヌワラビ
シラカシ
アオキ
シュロ
チャノキ
ヤブコウジ
ヤブラン
マンリョウ
アズマネザサ2
ニワトコ
アキグミ
シケシダ
ミズヒキ
ヒナタイノコズチ

 以上の照葉樹のほかに、低木層にコナラ、ケヤキ、ゴンズイ、リョウブ、ウワミズザクラ、ムラサキシキブ、コマユミ、ヤマコウバシ、ムクノキなどのコナラ林域の樹種が多い。
 埼玉県内でヒノキの自然林は両神山などの岩峰に見られるし、スギの自生は日本海側に多く、黒部峡谷の岩壁などに見られる。スギやヒノキは自然の条件下では、他の広葉樹との競争に負けて生活できないので、土壌的に最も厳しい岩峰上などに生活している。
 鶴ケ島町の台地上は、潜在的に照葉樹林が成立する地域であり、気候的にも土壌的にも、それだけ恵まれた条件を具えている。スギやヒノキは、なんらかの人間の保護なしには、この台地上で生活できない。スギ・ヒノキ林は、本来この地を生活域とするコナラ林やシラカシ林の構成種が、定期的な下刈りによって、除去されることによって育林されている。
 植林地内に、シラカシやアラカシ、コナラなどの若木が顔を出していることは、人間の管理の手が抜けた、わずかなすき間をぬって、本来この地に根を張って生活するこれらの樹種が、自分たちの復権を主張している姿とでもいえよう。