鶴ケ島に見られるセミはニイニイゼミ・アブラゼミ・ハルゼミ・ヒグラシ・ミンミンゼミ・ツクツクボウシの六種、それに東京以西の発生地から移動してくるクマゼミを加えて七種である。クマゼミは、近年東京にも定着しはじめ(人為的)、次第に北上する気配を見せているが、埼玉県では移動中の雄の声が稀に聞かれるだけである。鶴ケ島では一九七八年八月一二日、自庭で鳴き声を聞いた以外、本種に接したことはない。ハルゼミはマツ林に生息し、高倉の林とか高徳神社、太田ケ谷のマツ林などに今でも生き残っているが、以前に比してその生息地は著しく減少した。今では想像もできないが、かつては脚折北部でさえ、長久保を中心にハルゼミが多産し、毎年五月、ジーワ、ジーワの声を聞くことができたのである。しかしこうした発生地は、関越自動車道と区画整理でほとんど失われ、長久保小学校付近に残った小さなマツ林に、しがみつくようにして生き続けた僅かなハルゼミも、一九八〇年ころを境に姿を消し、一九八六年には、とうとうこのマツ林まで消滅した。ハルゼミに次いで減少するおそれあるのはヒグラシであるが、鶴ケ島にはまだかなりの個体数が生き残っている。案外少ないのがミンミンゼミである。八高線以西では極く普通であり、また東京の後楽園などでも多いミンミンゼミが、なぜその中間帯で少ないのであろう。興味深い問題である。鶴ケ島で最も多いセミはアブラゼミであるが、このセミすら脚折北部などでは減少している。以前は夏を山で過ごしていたヒヨドリが、一九七〇年ころをさかいに、夏も平地にとどまるようになり、さかんにセミを捕食するのが重要な原因と考えられる。(このことはNewton誌などに書いておいた)。雑木林などではそれほどでもないが、庭木のような孤立した樹木にいるセミは、ヒヨドリによって徹底攻撃をうけている。ニイニイゼミが減少していることなどもヒヨドリとの関係が深いと考えられる。