平安朝の承平(じょうへい)五年(九三五)に源順(みなもとのしたごう)が著わしたという『和名類聚抄』によると、武蔵国には二一郡あった。
図3-9 武蔵国21郡
「大日本読史地図」より
〔東京都域〕 三郡
多摩郡・荏原(えはら)郡・豊島(としま)郡
〔神奈川県域〕 三郡
都筑(つづき)郡・久良(くらき)郡・橘樹(たちばな)郡
〔埼玉県域〕 一五郡
足立(あだち)郡・新座(にいくら)郡・入間(いるま)郡・高麗(こま)郡・比企(ひき)郡・横見(よこみ)郡・埼玉(さきたま)郡・大里(おおさと)郡・男衾(おぶすま)郡・幡羅(はら)郡・榛沢(はんざわ)郡・那珂(なか)郡・児玉(こだま)郡・賀美(かみ)郡・秩父(ちちぶ)郡
郡のもとには郷があった。郷は五〇戸が一郷とされた。入間・高麗両郡の郷名をかかげると、
〔入間郡〕
麻羽郷 川角村・鶴ケ島・坂戸町の大部分・入西村・大家村。
大家(おおや)郷 大井原として、南畑、水子、鶴間をいう(吉田東伍『大日本地名辞書』以下『地名辞書』と記す)。大在家村すなわち大家村に擬す。(埼玉縣編纂『埼玉縣史』以下『縣史』という)
郡家(ぐうけ)郷 郡司のおるところで、郡衙の所在地。入間川町(狭山市)・奥富・堀兼を当てる(『縣史』)。鶴ケ島町若葉台も候補に上る(『新編埼玉県史』)。
高階(たかしな)郷 地勢の高丘起伏する場所として、毛呂・越生をさす(『縣史』)。所沢、山口、宮寺付近である(『地名辞書』)。
安刀(あと)郷 所沢市内の本郷・北野・久米方面(『縣史』)。
名細村上戸をあてて、上戸(うわど)・的場・三芳野付近とする(『地名辞書』)。地元の大図口承氏は「古代安刀郷に関する一考察」(※註)で、赤尾・越辺(おっぺ)・吉田・粟生田がその範囲に入るとする。
山田郷 川越市仙波および山田村一帯(『縣史』)。
広瀬郷 水富・柏原・元加治等の旧加治領(『縣史』)。
余戸(あまるべ)郷 令制の村落制度では、五〇戸一郷(里(さと))を原則としたが、五〇戸を超えた場合、九戸までの超過を認めるが、一〇戸を超えた場合には新たに一郷(里)を立てるという特例があった。余戸郷は一〇戸以上剰余の小村である。
三芳野村・勝呂村の一部、横沼・小沼・赤尾付近としている(『縣史』)。
〔高麗郡〕
高麗郷 高麗本郷といわれた地で、高麗・高麗川・高荻の各村である。
上総(かみつふさ)郷 移住した高句麗人のうち、上総国にいた人々をまとめておいた郷。のちに転音で加治庄といわれた地域で、飯能町・加治・精明・原市場の諸村にわたる。(『縣史』)
〔註〕
坂戸市教育委員会『坂戸風土記』4号所収