身部には、仏像をあらわす梵字(ぼんじ)(種子(しゅじ)という)があり、造立年月(日)の紀年銘が彫られるのが一般的である。梵字(種子)を刻まずに、図像として線刻された仏や、名号(みょうごう)(南無阿弥陀仏)・題目(だいもく)(南無妙法蓮華経)などを文字であらわす場合もある。経文の一部を記した偈(げ)は、信仰的背景を明瞭にする。
図3-18 板碑各部名称
次に板碑にあらわれた用語を説明する。
三具足(みつぐそく) 仏門に入らないで、俗人のままでいる人びとが、仏を回向(えこう)するために用いる最少の供養の道具。中央に香炉、右に燭台(しょくだい)、左に花瓶(けびょう)をおくのが通例である。それを前机(ぜんき)の上におく。
真言(しんごん) 陀羅尼(だらに)ともいう。一字一句に無辺の意味を蔵し、これを誦(ず)すると、もろもろの障害を除いて、種々の功徳(くどく)を受けるといわれる。代表的な真言として「光明真言」があり、これを誦すると、一切の罪業(ざいごう)を除くという。
偈(げ) 仏の功徳をほめたたえる詩。それぞれの宗派の中心経典から抜き出した簡潔な詩詞。四句を一偈とし、五字ないし七字を一句とする。
願文(がんもん) 神仏に立願するとき、その起請(きしょう)の趣旨を記した文。
種子(しゅじ) 板碑をはじめ、ほとんどの石塔には、仏教上の権威ある象徴として梵字が刻まれている。梵字は古代インドの文字であるが、中国や日本では、梵字のもつ呪術的威力が強調されて、あらゆる仏教遺物に氾濫するまでになった。板叫などでは、梵字一字をあてて一定の仏・菩薩をあらわしている。この場合、その一字が限りない仏の恩恵を受けるものとみる密教観から、種子とよんでいる。すべて功徳が生ずることを草木の種子にたとえていったわけである。
光明真言
おもな梵字
『歴史散歩事典』より