地位等級の決定方法

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耕地や宅地の地位等級を決定するには、先ず中央官庁で、全国各府県の収穫・地価を概定して、割り当て、これを受けた各府県では、村および村内各耕地、宅地の等位を決定する方法をとっていたというが、村内各耕地、宅地の等級決定には「持主銘々ヨリ申シ立テヲサセ、当否検査ノ上、適当ニ相定ムベキ事」ということが地租改正施行規則第一則に規定されていた。そうすると、当地方では、村々の地主の申し立てはどこまで生かされたのであろうか。
 地位等級を決定する経過については、吉本富雄氏の貴重な研究『埼玉県地租改正のおぼえがき』に詳記してあるから、それによって概説することにする。
 本県では、多少遅れて地租改正に着手したのだが、等級を組み立てるには、次の方法によった。
A模範組合の設定
 各郡村を適当に分けて、およそ二〇か村から三〇か村を連合して、地租改正のための組合村をつくった。そして、それを等級を決定する一単位とした。この組合村のなかで中央に位置し、水害・旱害も少く、村位(村の地位)も中等以上の村を選んで模範村とし、地位等級決定のモデルーケースとした。
B模範村の地位等級の組立て
 模範村では、正副戸長・地主惣代が中心となって、村内の地位の優劣を比較して、上等と思われる土地を決める。この土地を基準として、村内各地の等級を内定する。
 範模村での準備作業が終ると、組合村の区戸長・惣代・代理人が模範村に集合する。そして、毎筆を検視して、内定した等級の適否を検討する。もし不適当なものがあれば、それらの人々の意見に従い、予定の等級を更正する。このような手続をとって、模範村の等級が決定すると、早速、係り官の検査を受けて、最終的に等級が確定する。
C各村々の等級決定
 組合の各村々は、模範村で行った順序で、等級の組み立てをしてゆく。この場合、等級組み立ての基準となるものは、収穫量が中心である。田は米、畑は麦に換算する。そして、その他の諸条件(別項掲載)を考慮して、一斗五升内外を準拠として段階を区分してゆく。その段階は一村内でおよそ十等以内に区分する。また、水害・旱害の地や、極端な痩地(やせち)は等外地として、一等・二等を区分する。なお、同等級の内でも甲乙に分けた。
 その他の諸条件(地位等級撰定方概例)として以下のものがあった。
(1)地味の痩沃(そうよく) 素地(そじ)(したじ)の良否に注目する。
(2)耕耘の難易 舟車牛馬の運行、肥糞・秣草(まぐさ)等の便否、鳥獣その他妨害の多寡。
(3)水利の便否 河沼湖沢より漑用して、養水が乏しくないか、或は水源涸渇(こかつ)して不足であるか、又は引水等のため格外の労費がかかるか。
(4)水旱の有無 水利が至便で旱災もなく、地盤高燥で水溢の害はないか、又は、これに反する患妨があるか。
D甲乙組合権衝(けんこう)審査(甲乙組合の地位比較表の調査)
 権衝とは〝つりあい〟のことである。甲乙の模範組合のなかから、なるべく地味等が同じ条件のものを、各々二、三か村ずつ選んで、これを比較村とし、各々の村位を決定する。これは権衝を図るのが目的である。この任務は、地租改正の担当副区長、組合代理人、正副戸長が当るが、比較村では地主惣代のうち一、二名を加えている。これらの担当者は、甲、乙組合の各村を交互に巡視して、その村位を比較しながら決定してゆく。
E収穫量の決定
 このようにして、各村々一筆毎の地位等級と、一村全体の等級(村位)が決定すると、これに応じた収穫量を決定してゆく。これに応じた収穫量とは、実際の収穫量ではなく、見込み収穫量のことである。収穫量決定の手順は次のようである。
「たとえば、某郡の彼(かの)村と、此村とは同等で、土地の景況が同じであれば、某郡村が二石であると、此郡村も二石になる。某郡村と此郡村とは同等であるが、土地の景況に差があるから、某郡村は二石であるが、此郡村は一石九斗九升になる。すなわち、某郡村は二等に当る。」という認定である。
 こうして決定された収穫は、実収額ではなく仮定収穫、すなわち、地位等級に応じた収穫である。
F穀価の調査
 収穫を代金に換算するためには穀価が必要となるが、明治三年から七年まで五か年間の平均相場で換算することになっていた。しかし、当時は場所によって相場が異なるので、当地方では川越の米穀市場の相場を標準にした。一石当り五円四〇銭であった。この相場は、周辺村落の穀価に運送費や仲介業者の手数料が加算されているので、農家の庭先相場より高い値段である。この高値を基準にして換算するのだから、地租もまた増額する結果となったのである。