ヤミ売買

622 ~ 623
深刻な食糧難はヤミ売買を招いた。既に戦時中から行なわれていた東京方面からの食糧買出し―ヤミ売りは、戦後更に激増し、取締りの強い対象となった。東上線はヤミ買出しの人々でごった返し、列車の乗降も窓から行なわれた程であった。
 この当時の情況は、以下の回覧によく反映している。
   鶴発一二二七号
   昭和二十一年七月十七日 鶴ケ島村長小川進一
    各部落会長殿
     麦馬鈴薯等主要食糧の取締強化について
  標記の件に就いて比の度川越警察署長より特に比れが徹底を期する様にとの通牒がまいりました故部内の皆様に漏れなく御伝え下さい。
  最近全国各地に遅配欠配は累増し代替食糧は強化せられて国民の食生活は加速度的に窮迫し特に大消費都市東京に於ては飢餓寸前の実情にあります。加えるに食糧の先行不安は新麦新馬鈴薯の収穫期に入って買出を助長し早期の供出並に緊急搬出を緊要する現状に不拘却って是等の食糧等を繞る横流し其の他の不正悪質事犯を激増せしめつつある事は甚だ遺憾の事であります。このままにて推移する時は全国食糧需給の計画は破綻を招き現下の食糧危機を更に深刻化せしめる結果となるのでありましてこの際買出しを助長する様なことを払拭すると共に食糧危機突破の諸施策の実施と相俟って供出の完遂を図り目の前に迫る同胞飢餓突破のため之等の横流其他の不正悪質事犯の取締を強化することとなりたるについては右趣旨を了とせられ全幅の御協力をお願い致したいのであります。
  つきましては右の趣旨を回覧板にて至急御願いします。
 ヤミ取引における価格、つまりヤミ相場は、供出価格の何倍もの高値となった。このこともまた、悪性インフレの原因の一つであった。