耕地の総面積一、〇四六町九反四畝余のうち、水田八八町四反九畝余、畑九五八町四反四畝余である。比率では畑が九一パーセントを占め、水田はわずか九パーセントにすぎない。これをみると、鶴ケ島村は埼玉西部台地上に位置する典型的な畑作地域であることがわかる。
この他に、二八〇町歩余の森林が囲繞する。この森林は町民の生活用資材たるにとどまらず、これを利用して薪炭を製造し、農間渡世に役立てる貴重な資源である(表-51参照)。
表5-51 耕地と森林 |
村名 | 田面積 | 畑面積 | 森林面積 |
町 反 畝 歩 | 町 反 畝 歩 | 町 反 畝 | |
五味ケ谷 | 12.3.6.4 | 76.2.1.11 | 2.6 |
上広谷 | 9.5.8.26 | 76.0.3.24 | 4.2 |
戸宮 | 0 | 35.4.6.15 | 0 |
大塚野新田 | 0 | 50.5.5.26 | 48.8.2 |
太田ケ谷 | 14.4.3.16 | 139.2.0.5 | 2.8 |
藤金 | 9.5.9.7 | 73.1.3.11 | 54.7.2 |
三ツ木 | 15.2.8.25 | 47.8.5.22 | 31.6.6 |
三ツ木新田 | 0 | 2.8.25 | 1.4.7 |
脚折 | 19.0.7.23 | 107.7.3.16 | 29.2.3 |
上新田 | 0 | 43.8.9.18 | 0 |
中新田 | 0 | 47.3.0.23 | 0 |
下新田 | 0 | 62.0.4.28 | 0 |
高倉 | 8.1.5.15 | 144.2.6.19 | 103.8.0 |
町屋 | 0 | 54.4.3.6 | 0 |
町 反 畝 歩 | 町 反 畝 歩 | 町 反 畝 | |
合計 | 88.4.9.26 | 958.4.4.9 | 280.3.6 |
比率 | 6.6% | 72.2% | 21.1% |
『武蔵国郡村誌』より作成 |
以上のような耕地と森林の分布状況から鶴ケ島村の各地区は、地勢について次のような報告をする。一四地区がほとんど同様な報告であるから、代表して二地区をあげる。
「平坦、雑樹南北に繁茂す。車馬便利、薪炭乏しからず」(五味ケ谷)
「平坦なる丘陵にして、林木西北を掩い、運輸便利、薪炭剰余」(高倉)
この報告によると、鶴ケ島村は全体として、土地が平坦であり、従って運輸に便利であることと、村面積の二一パーセントを占める山林によって、薪炭が余るほど生産され、それを農間渡世の資材にしていることが強調されている。
ただし、脚折ただ一か所が運輸不便と書いているし、薪炭の乏しいのは三ツ木新田と中新田・戸宮の三か所である。もっとも、先の表で森林のない地区は、上新田・中新田・下新田・町屋の新田地区と戸宮である。三ツ木新田は一町四反七畝しか森林を保有していない。
また、同じく『郡村誌』の報告によると、各地区とも同様の地味であり、特に肥沃の耕地でないことを強調している。代表として脚折と三ツ木の分を示す。
「色赤黒、稲粱(とうりよう)に適せず、粟・稗(ひえ)に宜しく、水利不便、年々旱に苦しむ」(脚折村)
「色赤黒野土、稲麦に適せず、水利不便、時々旱に苦しむ」(三ツ木村)
「色赤黒の野土」というのは、関東ローム層を掩う表土が、粗悪で培養力に乏しく、耕作に適応する良質の真土ではないことを強調しているのである。また「稲麦に適せず」の麦とは大麦のことであろう。「水利不便、旱(ひでり)に苦しむ」とは、いずれの村の灌漑用水も中小河川からの安定した引水ではなく、谷頭の溜池にたよっているのだから、旱天がつづけばたちまち涸渇してしまうからであろう。「天水場にて旱損・水損場にて御座候」(高倉村)という記事は、その実状を示すものである。