竜蛇製作終了後、午後一時、白鬚神社の社頭で全員修祓(ばつ)、雨乞・祈願、竜蛇修祓、入魂の後出発する。焦げるような炎天下、老若約三百人が掛け声と共に竜蛇をかつぎ上げ、法螺(ほら)貝を吹き、太鼓を鳴りとどろかせながら進んでゆく。竜蛇の物凄い形相(ぎょうそう)と、張り上げる掛け声、この勇壮な光景に群る見物人は圧倒されて、ただ驚嘆の声を発するばかりである。塩で浄(きよ)められた道を東へ約一キロ進むと雷電池に到着する。祈願後、板倉雷電神社から運んだお水を池に注ぐ。竜蛇は老樹の間を縫っておごそかに池に入る。巨大な竜蛇が、老樹の高い梢(こずえ)すれすれに、大きな口を開けて、しずしずと池に入る有様は、その姿が怪奇なだけに、物凄い迫力をもって見る者を威圧する。やがて竜蛇は、池の中央に立てた神旗を、掛声をかけ水しぶきを浴びる三百の壮夫にかつがれて三周する。
一旦休憩、御神酒(おみき)をいただいたのち、再びかつぎ上げる。泥水で真黒くなりながら、「雨降れたんじゃく、ここへ懸(かか)れ黒雲」と叫び、水しぶきの飛ぶ中を、竜蛇の体をこわしながら、狂乱のうちに二周する。こうして、黒雲を呼び雨を祈るのである。
この雨乞は、二つの行事が複合されて同時に行われているのである。一つは、神を怒らすことである。所によっては、汚物を投げ込んで水神を怒らせることがあるという。それは、神に大いに暴れていただきたいという願望からそうするのである。竜神の住む滝へ大石を転がしたり、滝壺や池をかき廻したりする所もある。千葉県亀山村では、河を干(ほ)して魚を苦しめると、竜神が眷属(けんぞく)を助けるために雨を降らせると信じられている。脚折の場合は、雷神自体が暴れまわるのである。この雷神は荒れ狂って、あげくのはてには自分の身をずたずたに解体するのをいとわないのである。
他の一つは、「貰い水」行事である。板倉雷電神社からだけでなく、他の雷電社からでも貰い水をすれば、雨が降ると信じられている。この方が雷電信仰の一般的な行事である。
材料
孟宗竹 八〇本
麦から 五七〇把
縄 二三玉 等
竜蛇の大きさ
長さ 三六メートル
太さ 六メートル(頭部に近い廻り)
角の長さ 四メートル
鼻の穴(直径) 一八センチ
眼玉(直径) 二五センチ
宝珠の玉 四五センチ
尾の剣の長さ 一メートル五センチ
頭の高さ 四メートル五〇センチ
開いた口の直径 一メートル六〇センチ
重さ 約三トン
雨乞リレーマラソン(平成8年8月3日)
古式にのっとり、白鬚神社から群馬県板倉神社までの往復をリレーマラソンにより御水を運んだ
渡御案内図