脚折雨乞と鶴ヶ島らしさのあるまちづくり

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 昭和五十年に地元脚折地区の住民総意により脚折雨乞行事保存会が発足し、雨乞行事が復活する昭和五十一年には鶴ヶ島町の無形文化財に指定した。
 その後、保存会によって四年に一度雨乞行事が実施されているが、雨乞行事の復活が知られて来るに従い、全国各地からイベント等への参加紹請が続いた。
 市ではその都度、保存会と協議を重ね、雨乞行事を啓発する好機として、財政面のみでなく、人的な面においても援助して来た。
 また、作成した竜蛇は担ぎ上げるだけでも約二百五十人の人員を要し、その都度人員を確保するためには、約二千世帯にも及ぶ保存会員の結束力と信頼関係がなければイベント参加要請には答えられなかった。
 日頃の活動に市側が関わるものとしては、後継者育成のための竜蛇制作技術講習会や保存会が他地域の事例を学ぶための視察補助、啓発事業が主なものであり、こうした通常の活動は保存会が主体に自主的に運営されている。
 行事の実施年度には、多数の見学者のための安全対策や環境整備、ピーアール活動等については行政を主体として保存会や地域の協力のもとに展開している。
 市では平成八年に鶴ヶ島文化財保護審議会に今後の脚折雨乞行事のありかたについて諮問し、「脚折雨乞行事のように地域に継承されて来た文化財は単に保護の対象としてだけではなく、生活の知恵を蓄えた貴重な財産ととらえ、まちづくりのためにまた、郷土意識を高めるためにも積極的に活用して行くことが大切である。」との答申が出されている。
 市ではこの審議会の提言を踏まえて保存会をはじめ市民の理解と協力を得ながら、脚折雨乞行事が市民の財産として根づいていくようなまちづくりを進めることを議会の一般質問で回答している。
 具体的な方策として今後の保存会と市は、全国規模で関連する自治体や保存会などに呼びかけ開催した「雨乞竜と蛇のつどいまちづくりサミット」の継承事業や水や緑の大切さを雨乞行事の神であるオカミを主題として全国規模で展開されている「オカミサミット」への参加を通じて脚折雨乞行事の歴史や文化の調査研究を進め、雨乞行事に関する全国の情報発信基地を目指してその役割を担っていきたいと考えている。
 更に、市民の実行委員会の手による竜をテーマにした市美術展「竜のまちつるがしまアートフェスティバル」が毎年行われ、年々出品数が増加するとともに県内外だけではなく、海外からの出展も増えている。脚折雨乞行事を基軸としたまちづくりが市民の手により多種多様に展開されている。
 また、平成七年度には故今泉隆平氏から本市に寄贈された一千七百二十五点のオセアニア民族造形美術品は、自然や精霊への畏敬と、先祖を敬う率直な心から生みだされたものであり、そこには我々が失いがちな人間の心の豊かさを求める根元的なあり方が見られる。地域に伝承されて来た雨乞行事や世界の民族が守り育んできた文化遺産は、先人が暮らしてきた膨大な時間の経過を人類に共通する生き方や文化の重みとして感じさせてくれる重要な要素となっている。
 こうした文化遺産の活用は一人ひとりの市民が歴史的空間としてのつるがしま、地理的空間として世界を構成する一員であるということを意識してもらう動機となり、”つるがしま”らしさのあるまちづくりを推進するための文化環境の醸成へ、力強い要素としてその役割を果たし続けることになると考えている。