三郡八景

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 江戸後期に、三郡(入間・高麗・比企)八景が文人墨客にもてはやされ、その一つに「雷池過雨」が挙げられていた。「過雨」とは通り雨のことである。サアとひと降りして、地面を濡らしたかと思うと、すぐ雨は止んで、日が輝き、越生の山に虹がかかっているという光景を想像されるが、とかく災害を伴いがちな豪雨という表現を避けたところに、八景設定者の用語上の配慮がしのばれる。
 旱魃にこの池頭の雷電社に祈ると必ず雨に恵まれるということが、古くから一般に知られており、そこから着想したと思われる。
 八景は次の通りである。
一 箕輪(みのわ)垂桜 日高市新堀吹上の箕輪山霊巌寺の枝垂(しだれ)桜(現存)

二 雷池(なるかみのいけ)過雨

三 檜山(ひわだやま)秋月 日高市日和田山。郡内第一の名山といわれ、標高三〇五メートルであまり高い山とはいえないが、山上の眺望は雄大である。

「日和田山は、郡中第一の高山にして、高さ一百余丈、登路峻険、風景に富み、眺望甚だ佳なり。」(「入間郡地誌史談」明治二十九年)

四 入西(にっさい)落雁 江戸時代の入西とは、入西領のうち「入西十七ケ村」のことであろう。

 和田・沢木・金田・今西・北浅羽・戸口・牛久保・新堀・竹の内・小山・堀込・塚崎・中里・峯・大塚・吉田・新ケ谷

五 浅羽暮雪 坂戸市浅羽。浅羽野は「万葉集」以来の歌の名所である。

六 岩殿暁鐘 坂東十番の霊場、岩殿観音正法寺には、元享二(一三二二)年銘の鐘がある。豊かさにさびた音色、余韻の美しいことで有名な銅鐘である。この銅鐘を撞(つ)き鳴らす「明け六つ」の妙音は、暁闇を衝(つ)いて九十九峯、四十八谷にあまねくひびき渡った。

七 麗川浮筏 高麗川の筏(いかだ)流し。西川材という名材を江戸へ運ぶため、水豊かな高麗川を筏で流した。今は昔のおもかげはない。

八 宿谷瀑布(しゅくやのばくふ) 毛呂山町宿谷滝。「宿谷の瀑布(たき)は山根村にあり。直下四丈余(十二メートル余)、樹木蓊鬱(おううつ)として四周を囲み、県内第一と称す」(埼玉県地誌史談)

 この八景のうち、今なお当時の景観を留めるのは半数にすぎないであろう。