13 満福寺の枝垂桜

 未だ肌寒い3月10日頃、淡く色づいた桜の蕾の見られるのは極めて異色のものであると言えよう。ましてそれが、地方的にも数少いと言われる枝垂桜の古木であるならば、見る者に与える感銘は尚更のことである。柳の如く枝は垂れ下り、その枝に見事な花をつける古刹満福寺の枝垂桜は、樹令300年以上と言う。

 天台宗慈眼山満福寺は、川越中院4ヶ末寺の1つであり、今から450余年前の天正元年(1573)僧舜清中興(そうしゅんせいちゅうこう)と伝えられる。この寺の本堂前庭西にそびえ立つ老桜樹は、川越喜多院将軍桜の子を移したものであると寺に伝わっている。花はやや小形で、開花期間は吉野桜より短く繊細な枝に満開でつく花は独得の風情を醸(かも)し出している。そして、一般の桜の花が人々の目につく頃には、既に枝垂桜は咲き終えているのである。


※:ここで紹介されている満福寺の枝垂桜は、平成元年(1989)に枯れてしまい、倒木の危険性もあることから伐採されました。現在、山門脇に別の枝垂桜が春になると花を咲かせています。