56 三ツ木のふせぎ

 大字三ツ木には江戸時代の古くから念仏講があり、今から220年前の寛政年代その講中が念仏供養塔を建てている。そうした風土から生まれたものが180年前の天保時代から現在に及ぶまで続けられている「三ツ木村ふせぎ行事」である。

 毎年5月初旬村の摘田(田に種を直接まく仕事)が終えると、農上り3日正月(農休み)の布令が出される習慣が定着し、5月8・9・10日頃の悪疫退散、家内安全のため「ふせぎ」の祭事が行なわれる。この行事は、古く江戸時代から三ツ木村に伝わっているもので、古式にのっとり行なわれている。

 当日は、神官に悪疫退散、家内安全の祈祷札をつくってもらい、行事終了の時にこれを使う。慈眼寺を出発した講中(字中の人)は、善光寺の百万遍経を唱え家々を廻る。各家々ではあらかじめ台を用意し、線香と花を供えておく。講中は1軒1軒で、善光寺様の掛軸をつるし「なむあみだぶつ」を唱え鐘を叩き用意されてある台に線香をともす。長い時間を費しこの行事が終ると、三ツ木に入ってくる全部の道辻13ヶ所の左右に竹を立て、それを縄でつなぎそこに祈祷礼をつるし、悪疫が村に入らぬ様、村中家内安全である様願う。こうして180年の伝統と歴史のある「ふせぎ」は終了するのである。

 素朴な、しかも長い伝統の「ふせぎ」行事により、むら人の健康と幸いが限りなく続いていく事であろう。


※:百万遍経は略式百万遍である。