家内安全・五穀豊饒の願いをこめた村人の大般若行事は、遠く江戸の時代に始まり今に至るまで伝統行事としてここ太田ヶ谷に引継がれてきている。
毎年3月3日は、村人が1年無事で暮せる様にと心待ちわびる大般若の日である。大般若の行事は、満福寺でなされる厳粛な読経から始まる。それが終ると、大般若経600巻を100巻ずつ6つに分け、それぞれを信徒2名で担ぎ計12名の信徒が途中肩を替えながら村中の各戸を廻るのである。
家々では縁側から座敷・座敷から玄関へと敷物を並べ土足で通れる様手配し、台の上に線香を焚いて大般若を御迎えする。大般若は縁側から入り御祈祷札を置いて玄関から出て次の家へと小走る様な早足で廻るので、容易ならざる事であるという。この行事が終了すると、100巻毎に担ざ棒にかぐり付けた縄を解き、大般若経は丁重に寺に納め、使った縄は小切れにして全信徒で分かち合い悪魔除けとして家々の玄関に御札をつけて吊し、家内安全・五穀豊饒を祈るという。
満福寺秘蔵の大般若経600巻は、古時太田ヶ谷村を初め近隣の下川村・上広谷村・笠幡村・増方村・鹿山村・萱方村・脚折村・高麗上宿村・神田宿村・道目木村・半沢村等広範な村々から奉納されたものである。
巻末には1巻毎に願いの趣旨と村名・施主名が記されている。
為家内転禍為福 村名 施主名
為自宝妙養信女 村名 施主名
為母親頓証菩提 村名 施主名
為三月二十八日
四月九日
七月十八日 祈志霊魂 村名 施主名
十二月三日
等の如く記されて奉納されている。
これら大般若経および大般若行事は、江戸時代に於ける庶民信仰の一端を知ることができる貴重なものである。
追記
現在は御堂で大般若経600巻の転読を行い、ムラ回りは行われていない。