一一 獅子の褒め言葉、返し言葉

 褒め言葉 暫く、暫く、暫くの間、御一同様の御許しを頂きまして、東西、東西、東西と、御一同をおん留め申し上げましては甚だ失礼千万には候へど、未熟なる私に一言御許し下さいまし。 さてその当村の鎮守御祭礼のおん獅子なり。当村と申するは東は筑波、西は富士、北は日光赤城山を控え、南は入間川、多摩川の流れを控え、関東はその名も高き、鶴は山でなし里でなし、山と里の間に鶴ケ島大字○○、鎮守御祭礼のおん獅子なり。

 さてその鎮守の大門眺むれば、千万に過ぎしシンリン、さてその館を眺むれば、四方八棟黄金尽くしで葺き上げる。さぁてその御庭を眺むれば、周りは棒金鉄の釘、黄菊白菊咲き揃い、さてその軒場に立ちたる万灯は、天下泰平、国家安全、風雨順時、五穀豊饒のちらし書き。

 そもそも獅子の始まりは、吾国にては始まらぬ。支那、朝鮮にても始まらぬ。印度の国から来朝し、悪事災難救災のおん神なり。

 獅子の頭は三ツ頭。先なる獅子から褒めようか、中なる獅子から褒めようか、後なる獅子から褒めようか。

 まず第一番の導きは、山で千年、川で千年、海にて三千年を経し長命の法螺の貝なり。先なる獅子と申するは、眼は燃ゆる火の如く、鬚は黄金の針の如く、爪は剱を研ぎ立てた、その容態を何と申してよかりょうか。まず印度の国釈迦のご領、獅子のおん神とも申そうかい。中なる獅子と申せるは、相州は江の島厳島神社。まず子育てのおん神と申そうかい。後なる獅子と申するは、八十八夜の別れ霜、二百十日の嵐除け。まず上州は榛名神社のお守りとも申そうかい。さてまた中立ちの程の良さ、京で生まれて伊勢育ち、肌に着いたるお召着は、獅子に牡丹の浮絵なり。さてまた先に持ちたる軍配は、天下泰平、日月のちらし書き。さてまた右手に持った采配は、まず三ツ頭を引き回す器なり。花笠師従を褒め申す。花に舞い込む金銀の蝶。花は吉野か嵐山か、まず大和の国の吉野桜のまっ盛り。歌うたい師従を褒め申す。笛の音澄みの尊さ、義経公の青葉の笛の音澄みにさも似たり。

 まだまだお褒め申したきこと山々よ。山に木の数草の数。七里ヶ浜では砂の数ほど候へども、下手な長文句、かえって御祭の妨げと相なる。まずはこの位で打ち切ります。

 信徒一同様にはそそう下らぬ申し上げます。

 まずは失礼千万、かくの如く信徒一同様を、ウヤーマアーッテーモース

 返し言葉 東西、東西。ただ今おん獅子褒め下されしお客様は何処のお方か知りませんが、御覧の通りまだ稽古中の事とて不出来、不揃いには候へど、万端上々の有り難きおん言葉、山々の様。山に例えて申すれば、第一山は富士の山。川に例えて申すれば、第一川は信濃川。何かもって、いちいちおん礼すべきでは候へども、ご覧の通り信徒一同取り込みの事にて設備あい届かず候へば、信徒一同に代わり不敏なる一言を以て、聊おん礼ご返歌までに罷りあり。

 まずお客様一同様を、ウヤーマーッテーモース

(故岸田国松氏 明治二〇年生 藤金 昭和五三年一〇月口述)