一二 高倉の獅子舞の特徴

 高倉の獅子舞は、一般的な一人立ちの獅子舞である。獅子は三頭で、テエジシ(=大獅子。前獅子とも称す)、中獅子(女獅子とも称する)、後獅子より構成される。これは平野部での一般的名称である大獅子、女獅子、中獅子とは若干の違いがあり、川越、狭山地方とともに秩父系統の流れを汲む特異な形態を示している。

 獅子頭には一般に獅子形式と龍頭形式がある。龍頭形式は顔が前後が長く、角が著しく長く捩じれているのが特徴で、頭髪も毛より鳥羽が多い。高倉の獅子頭は、形態上は秩父地方などの山岳地帯に分布する獅子形式である。頭髪が主に御幣状の毛となっている点も獅子形式といえる。しかし、前髪に長い黒鳥羽を飾っている点、角が捩じり角である点は、龍頭形式の特徴を有する。このことから、高倉の獅子は獅子形式と竜頭形式が混合した形態と解釈できる。

 獅子頭の顎下から前に垂れる幅広い布の名称は「ミズヒキ」で、秩父、比企、入間郡と共通している。獅子役の服装は裁っ着け桍を着用するが、入間、比企両郡の山岳山麓地方ではこれを切り桍と称する。この点では川越系統に属しているものの、細かい点では違いも見うけられる。

 舞のことを「シバ」と称する。「シバ」とはもともと土俵場の別名であり、本来は土俵を築いてそこで舞ったものと思われる。シバの名称は比企郡など北部平野地方に多く残っている。もっとも、高倉をはじめ大多数は、その名称のみが残って実際には土俵場を作ることはない。また、高倉の獅子舞では、四隅にササラッ子を立てて縄を張るなど、「二ワ」的要素も見られる


竿掛かり

 舞の曲目は二曲構成で「竿掛かり」と「女獅子隠し」かおる。ともに舞の中に主題を持っている。

 竿掛かりは「掛かり物」の一種で、舞の最中に竿を出し、獅子がそれに掛かり遊ぶ様子を演じる。女獅子隠し同様に、竿掛かりも雄獅子と女獅子との葛藤の場面を表現したものであるという。 女獅子隠しは、三頭の獅子が仲良く花に掛かり遊び楽しんでいる間に、中獅子(女獅子)が花(ササラッ子)の間に隠されてしまう。狼狽した二頭の雄獅子がこれを探し回る。その挙げ句ようやく前獅子が女獅子を探し出し、花笠をくぐって近寄りむつまじく舞踊る。これを見た後獅子は嫉妬を起こし、前獅子との間に女獅子の奪い合いが始まる。争いの決着がつかないまま、中獅子が二頭の雄獅子に飴を渡して和解を図り、二頭は怒りの心を和らげ、最後に三頭が楽しく舞踊るといった筋立てである。獅子舞の曲目の中では一般的に最も多いものである。

 獅子歌は比企郡では一二残っているが高倉では次の二つの歌があるだけで、小曲目小歌数である。

 ・この宮は飛騨の匠の建てた宮 楔一つで四方固める
 ・この寺は四方八つ棟桧皮葺き 中で如来が光り輝く

 この他にも名主を褒め讃える歌もあったというが、今は伝わっていない。

 先導役はハイオイと称する。これは入間郡一帯での名称である。ササラッ子は「四本立ち」で被る花笠は川越系統の円形である。

 以上のことから、高倉の獅子舞は秩父系統的な要素が強いが、平野部の川越系統的な要素も認められ、単一的なものではなく、諸要素の混合した中から独自に発展したものと考えられる。

 一般的に獅子舞は一年を通じて行われているが、夏と秋が一番多く、稲作と密接な関係があるといわれる。夏の獅子舞は害虫駆除や雨乞いに関連があり、秋の獅子舞は豊作感謝と来年への期待が込められているとされる。高倉の獅子舞は晩秋に行われ、オクンチという収穫感謝の祭の際に神社に奉納されるものである。万灯には「家内安全」の他に「五穀豊饒」と書かれている。