1 後土御門院
千鳥夜をさむミ霜さへふかくをくの海の
しほのひかたに千とりなく也 成仁
2 後柏原院 村すゝめ
朝鶯
村すゝめねくらの竹のおなしきに
けさめつらしきうくひすの声 勝仁
3 後奈良院
野花非一
花の枝のほかにミたれてをく露の
千くさにあまる野への秋かせ 知仁
4 正親町院
岡月
名にしおふこよひの月にときハなる
松も色そふをかのへのさと 方仁
5 近衛殿尚通公 御法名 知やいかに
知やいかに千とせの春を一すちに
ちきる心のいと桜とは 大証
6 近衛殿 うらみしと
恨恋うらみしとおもへハつらき心をも
憂身のほとのことはりにして 前嗣
7 近衛殿前久公 御法名 数ならぬ
仙岩菊返歌
数ならぬ人わきしてや忍ひ音を
よそにハもらす山ほとゝきす 竜山
8 二条殿尹房公 御法名 分てまつ
都早春
分てまつ花の都の名にたてる
かすみや春をさそひきぬらん 紹恵
9 一条殿兼良公 御法名 梅か香を
羅浮山
梅か香をかりねの山に夢さめて
木すゑにさはく村鳥の声 覚恵
10 菊亭殿宣季公 御一字名亘 わするなよ
和□まいる
わするなよしはしわかるゝ旅とても
なれし都の春のけしきを 亘
11 転法輪殿実量公 御法名 夕あらし
秋夕風
夕あらしはらふな苔のたもとにも
露たにあらは月そやとらむ 禅空
12 転法輪殿実香公 御法名 吹わくる
野径薄
吹わくる雪風に露も玉ほこの
みちせはからぬなひく小薄 諦空
13 三条西殿実隆公 御法名 春ハまた
初春霞
春ハまた誰にしのふのすり衣
みたれてうすく立霞かな 堯空
14 三条西殿公条公 御法名 ことの葉の
社頭祝
ことの葉の道にひかれて君か代も
まさこのかすにすミよしの浜 仍覚
15 三条西三光院殿
鷹狩
ふみたつるかつハのきゝす雪のうへハ
しハしかくれむかけたにもなし 実世
16 三条西殿 さめつゝも
暁眠易覚さめつゝも夜ふかき夢のあやしきハ
枕の中の鳥やなくらむ 実枝
17 万里小路殿惟房公 御一字名蜀 昔のとほそ
御返事まいる
昔のとほそおもひへぬるうき身より
とふへき風のつてさへもなし 蜀
18 清閑寺殿 立そハむ
庭松
立そハむみとりもいく世君か代の
はるにさかふるやとの松か枝 保房
19 持明院殿基規卿 御法名 風にちる
柏霰
風にちるをとハあられの玉柏
もとす柴まても残るとはなし 宗栄
20 下冷泉殿政為卿 御法名 とはゝやな
鹿声催涙
とはゝやな妻とひわひてなく鹿も
われはかりやハ涙もろなる 暁覚
21 飛鳥井殿雅親卿 夕つく日 御法名
時雨
夕つく日さそやと山のま木の葉に
かたへ時雨る色そさひぬる 栄雅
飛鳥井殿
野宿
ふるさとに夢もかよハすいく夜をか
野もりかいほの月にあかさむ 雅教
22 飛鳥井殿 ちりて行
ちりて行名残ハおもへ植そへん
みきりの花の春をまつとも 雅継
23 飛鳥井殿 わかさ路や
わかさ路やかさなる山ハとをくとも
さくへき花の春やこのまし 雅枝
24 飛鳥井殿庶流雅康卿 御法名 書かはす
書かはすあまたのかすをあハれ我
一度君に逢世ともかな 宋世
25 飛鳥井殿 たゝひとつ
墳亡羊翁之高吟予又備笑具たゝひとつ梢にのこるありのミは
あちきなしとや人のいふらん 雅昭
26 竹内殿 くれて吹
七夕
くれて吹おひてのかせも七夕の
舟出やいそく天の川波 当治
27 綾小路殿俊量卿 御法名 たのむそよ
恋車
たのむそよ別のみちの柴くるま
つまぬ日数にめくり逢よを 量秀
28 五辻殿
暮秋虫
このころはむしのなく音もよハるらし
した露寒きみやき野ゝ原 源政仲
29 西洞院殿時慶卿 法名 よるへなみ
片恋
よるへなみしらぬみなとのかたし貝
あひかたき身を歎くころ哉 円空
30 大智庵 其阿替名 今日立と
立春をよミ侍
今日立といへはこゝろにやとり木の
はなさく春のまかふ空かな 心従
31 連歌師 定なく
定なく降や箒木夕時雨 昌胤
32 連歌師 鶯の
鶯のねよけのしるし宿の梅 紹尚
33 甘露寺殿 親長卿御法名 にほふかを
梅
にほふかを袖にうつさぬ花ならは
おしかりぬへき梅のした風 蓮空
34 細川兵部大輔殿藤孝 御法名 さきのこる
首夏藤
さきのこる藤のうら葉のうらとけて
ひとつにかふる夏ころもかな 玄旨
35 後奈良院 吉野やま
吉野やま春の雪とはみえながらかをこそかハれ花にやあるらむ
36 後奈良院 岩まもる
岩まもる波のしからミかけとめて
流もやらすこほる山川
37 後奈良院 音たてゝ
音たてゝ木すゑをハらふ山風も
けさよりはけし冬やきぬらん
38 後奈良院 またしらぬ
またしらぬたひの道にそ出にける
野くらしの原人に問つゝ
39 後奈良院 雪ならは
雪ならはまかきにのミはつもらしと
おもひとくにそしら菊の花
40 近衛殿信尹公 春の夜の
春の夜の闇ハあやなし桜風
色こそみえねかやハかたるゝ
41 近衛殿信尹公 いつかたに
いつかたに引かくれなん世中に
身のあれハこそ人もつらけれ
42 近衛殿信尹公 野辺の露
野辺の露ハ色もなくてやこほれつる
袖よりをくる萩のうハ風
43 近衛殿信尹公 しろたへの
しろたへの袖のわかれに露おちて
身にしむ色の秋風そふく
44 近衛殿信尹公 わすれてハ
わすれてハうちなけかるゝゆふへ哉われのミしりて過る月日を
45 近衛殿信尹公 命をは
命をはあたなる物ときゝしかと
つらきかためはなくもあるかな
46 近衛殿信尹公 あふことは
あふことはさて山川のあさミこそ
袖のミぬれてうきみ也けれ
47 近衛殿信尹公 世をそむく
世をそむく所とかきくおく山は
物みもひにそいるへかりける
48 近衛殿信尹公 消わひぬ
消わひぬうつろふ人の秋の色に
身をこからしの森のしら露
49 近衛殿信尹公 帰りこん
帰りこん程をや人にちきらまし
しのはれぬへき我身なりせば
50 近衛殿信尹公 せみのこゑ
せみのこゑきけハかなしな夏衣
うすくや人のならんと思へハ
51 近衛殿信尹公 しら玉か
しら玉か露かとゝハん人もかな
物おもふ袖をさしてこたへん
52 近衛殿信尹公 竹ちかく
竹ちかくよとこねはせし鶯のなくこゑきけハ朝ハさられす
53 近衛殿信尹公 日のひかり
日のひかりやふくわかねハいその上
ふりにしさとに春は来にけり
54 近衛殿信尹公 いつはりの
いつはりのなき世にみえん時もなを
おなし心や君にのこさむ
55 近衛殿信尹公 ほとゝきす
ほとゝきすなくやさ月のミしか夜も
ひとりしぬれはあかしかねつも
56 近衛殿信尹公 人こゝろ
人こゝろうす花そめのかわころも
さくたにあらて色やかハらん
57 (究札なし)
思ひやる心はかりはさはらしを
なにへたつらんミねのしら雪
58 近衛殿信輔公 こひしなん
こひしなんのちはなにせんいける身の
ためしそ人ハ見まくほしけれ
59 近衛殿信輔公 都にて
都にてなかめし月のもろ共に
たひねの空にいてにける哉
60 近衛殿信輔公 さくらさく
さくらさくとを山とりのしたりおのなかくし日もあかぬ色かな
61 青蓮院殿尊応 朝踏
朝踏 落花 相伴出 暮 随飛 鳥 一 時帰
62 青蓮院殿尊応 さくらちる
さくらちる木のしたかせはさむからて
空にしられぬ雪そふりける
63 後花園院 心とや
心とやもみちはすらむたつた山
松ハしられしぬれぬ物かは
64 後柏原院
うらみしみな今朝一ふてのをそくとも
昨日はこひし人のこゝろを 勝仁
65 後奈良院 さをしかの
さをしかの声きこゆなり宮きのゝ
もとあらのこはき花さかりかも
66 後陽成院 よそにみて
よそにみてかへらむ人に藤の花
はひまつはれと枝ハあるとも
67 寛文比仙洞様 前廉之御宸辰翰 わすれしと
わすれしと契りていてしおもかけハ
ミゆらん物を古郷の月
68 二条殿尹房公 御法名 花もいま
夏草
花もいまなつさく露のふか草の
さとハかりにもたれかとハまし 紹恵
69 二条殿尹房公 ゆふしほの 御法名
寒草
ゆふしほの入江の蘆のそよさらに
霜吹まよふ風のはけしさ 紹恵
70 二条殿尹房公 御法名 ふけゆけハ
深更虫ふけゆけハまくらもとめてきり/\す
七ふになるゝ十ふのすかこも 紹恵
71 一条殿冬経公 さひしさは
さひしさはその色としもなかりけり
槇たつ山の秋の夕くれ
72 飛鳥井殿雅庸卿 よそににぬ 内基公哥
よそににぬ月をみよとや秋かせの
音羽のやまは雲霧もなき 内基
73 飛鳥井殿庶流雅 康卿御法名 飛鳥井殿宋行 此やとの
神祇
此やとのわかみつならし石清水
神のめくみの春をむかへて 宋世
74 勧修院殿経広卿 秋かせの
秋かせのふき来し日より音羽山
ミねの木末も色付にけり
75 烏丸殿光賢卿 故郷の
故郷のもとあらの小萩咲しより
よな/\庭の月そうつろふ
76 竹屋殿光長卿 木のま
木のまよりもりくる月のかけミれハ
こゝろつくしの秋はきにけり
77 東園殿基長朝臣 誰ための
誰ための心つくしにあすしらぬ
身を思ふとて世をなけくらん
78 野宮殿定基朝臣 大かたに
大かたにすくる月日をなかめしは
わか身にとしのつもるなりけり
79 林氏道春法印 月色幾望
和或人韻九月十三夜
月色幾望玉漸団 朱簾移影上高欄 道春
一天陰霽皆奇夜 錯做岐陽微雪看
80 和歌四天王頓阿
のかれきてけにみるときハかはりけり
おもひやられし深山への月
81 和歌所法印堯孝 紅葉浅深
紅葉浅深 故郷暮秋 海辺暁雲
82 永源寺一糸和尚 うきよには
うきよにはかとさせりてもみえなくに
なとかわかみのいてかてにする
83 東寺金勝院白清 須磨の関
千鳥
須磨の関あり明の空になく千とり
かたふく月ハなれもかなしや
84 山崎住妙喜庵宗鑑 けふこすハ
けふこすハあすハ無とそふりなまし
きらすはありとも花とミましや
85 周防山口大智庵其阿 散花の
散花のミつのまに/\とめくれハ
山にも春はなく成にけり
86 連歌師玄仲 こと浦の
こと浦の風より涼けし池の松 玄仲
87 鳥養宗慶 あふ坂は
開路
月
あふ坂はかへりこむ日をたのミても
空行月のせきもりそなき
88 八条殿穏仁 いつくとも
いつくともはるの光ハわかなくに
またみよし野ゝやまは雪ふる
89 近衛殿尚嗣公 色かハる
色かハるミのゝ中山秋越て又とをさかるあふさかの関
90 九条殿幸家公 鶴の子の
鶴契追年
鶴の子の又やしはこの末まても
ふるき例をわか代とや見ん 道家公
91 壬生官務孝亮 袖ひらて
袖ひらてむすひし水のこほれるを
春たつけふの風やとくらむ
92 久我殿晴通公
あらし明まくすかはらになく鹿は
恨てのミやつまをこふらむ
93 油小路殿隆基卿 秋の野ゝ
秋の野ゝ草の袂か花薄
ほに出てまねく袖とミゆらん
94 裏辻殿季福卿 をのつから
をのつから逢はあふもたのまれす
わかれそこひのまことなりける
95 岩倉殿具家卿 前廉之御筆 うつら鳴
うつら鳴いはれの野への秋はきを
おもふ人ともミへるけふかな
96 高辻殿長純卿 百敷の
百敷の大宮人はいとまあれや
さくらかさしてけふもくらしつ
97 川鰭殿基秀卿 青柳の
青柳の糸よりかくる春しもそみたれてはなのほころひにける
98 水無瀬殿兼成卿 うすくこき
うすくこき野へのみとりのわか草に
跡まて見ゆる雪のむら消
99 筑前中納言秀秋卿 金吾中納言殿秀秋卿 さよしくれ
さよしくれ故郷とをきあつまやに
夢ち露けき草枕かな
100 秋田城助殿実季 秋田城介殿実季 ね覚して
ね覚してたれか聞らん此比の
この柴にかゝるよはの時雨を
101 木下宮内殿 木下宮内少輔利房 法名宗連 白妙の
白妙の袖のわかれに露をちて
身にしむ色の秋風そ吹
102 少輔東坊 松しまの
松しまのあたのとまやもいかならん
須磨のうら人しほたるゝかな
103 飛鳥井殿雅直
おもふこといはてそたゝにやみぬへき
われはひとしき人しなけれは
104 梅園殿実清
白雲の夕ゐるやまそなかりける
月をむかふるよものあらしに
105 竹中殿季有
蛙なくゐての山ふき散にけり
はなのさかりにあはましものを
106 小野徳勝院禅昌
扇袖のうへに日ハうす物のあふき哉
107 本阿弥光悦
わきもこかたひねの衣うすき深と
よきてふかなんよハの山風
108 宮内卿女筆
さゆる夜は所もわかぬ霜なりや
いかてあさ日も山にをくらん
109 小野通女筆
秋をきて時こそ有けれ菊のはな
うつろふからに色のまされは
110 (究書なし)
朽木の柳を題にて所望之時
楊枝にハせねとくち木の柳哉 玄札
111 (究書なし)
池なミはかきつはたをやゆりの花 立圃
112 俳諧師斉藤氏 毛短に 斉藤徳元 毛短に
毛短に鶉もけふや衣かへ 徳元
113 (究書なし)
椴ニ紅梅の立双たるをミて
立ならふもミ紅梅やニ木たけ 未得
114 当今様 前廉之御筆 もしほ焼 もしほ焼
もしほ焼蜑の賤や夕煙
立名もくるし思ひ絶なく
115 連歌師玄仲 代筆 はなの香や
花はなの香や四方の大満春の風 秀元
116 日野殿 民草も
奉祝
民草もめくミになひく御代の春に
あかるをあふく天か下人 輝光
117 照高院道澄 いろは
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
一二三四五六七八九十
118 周防山口連歌師玄作 年こえて
歳暮年こえて花鶯ハさもあらハあれ
おしまさらめやけふの夕暮 玄作
119 周防山口連歌師洪仙 ふゆの名を
款冬
ふゆの名をいふそあやしき山吹の
花はにほひにしるき春風 洪仙
120 周防山口連歌師宗漸 鵙のなく
田家鳥
鵙のなく門田のくろの朝日影
よそにうつろふ村雀かな 宗漸
121 大内殿内連歌師隆善 日数へて
不逢恋
日数へておもへハよるの夢にさへ
それとも見えぬ君か面かけ 隆善
122 大内殿内連歌師武之 うき枕
旅泊夢うき枕したふもしらすとまり船
夢はとまらてかへる浪哉 武之
123 大内殿内連歌師家居 月をそき
鵜川
月をそき鵜川の岸の夜の波に
船さしいたす袖や涼しき 家居
124 大内殿内連歌師隆徳 ふるさとの
故郷夕花
ふるさとの軒のしのふの夕露に
みたれてにほふ花のはる風 隆徳
125 大内殿内連歌師興基 岩そゝく
春田雨
岩そゝく水もたえ/\春雨の
ふりにしさとや小田かへすらん 興基
126 大内殿内連歌師承良 白砂に
松雪
白砂にふりこそつもれ岡の辺の
松をはなかと雪の明けほの 承良
127 周防山口連歌師定珪 蔦かつら
岡紅葉
蔦かつら染めししくれはかた岡の
松にもかゝる色をみせけり 定珪
128 周防山口連歌師宗可 鶯の
梅欲散
鶯の羽かせはちらせちるとても
うつろふ梅の色とやハミん 宗可
129 周防山口連歌師任源 むすひつる
女郎花
むすひつる露やうらみん女郎花
枕さためすなひく秋かせ 任源
130 大内殿内連歌師 谷ふかみ
氷室谷ふかみ茂る木かけの氷室もり
なつなき年をいく世へぬらむ 重輔
131 大内殿内連歌師興滋 武蔵野や
野雪
武蔵野や行来たえつゝふる雪に
みちふミまよふ遠のたひ人 興滋
132 大内殿内連歌師孝順 こし路へと
夜帰雁
こし路へといそく心そしられける
夜ふかき月にかへる雁かね 孝順
133 大内殿内連歌師隆綱 絶せしの
河
絶せしの富のを川のなかれにや
かミ代くもらぬ月ハすむらん 隆綱
134 大内殿内連歌師明源 さくらさく
故郷霞
さくらさくなめらの山に来てミれは
ふりにし志賀の霞ぬる哉 明源
135 大内殿内連歌師長重 冬枯の
炭竈
冬枯の木すゑをさむミ降雪の
うちよりけふる小野のすみかま 長重
136 大内殿内連歌師頼允 山たかみ
花
山たかみ霞にこめてさく花の
ありとや風の空にゝほへる 頼允
137 大内殿内連歌師隆勝 よひのまに
夏月
よひのまに入ぬる夏の月影ハ
山のはつらき心とをしれ 隆勝
138 大内殿内連歌師敦定 下もえの
沢若菜下もえの野沢の水の煙にそ
つまむ若菜の跡そしらるゝ 敦定
139 大内殿内連歌師武将 立帰り
浜帰雁
立帰り浪とともにそゆく雁の
春のはま辺に名残をそ思ふ 武将
140 大内殿内連歌師宥任 幾たひか
春雨
幾たひか袖にふりけんかり衣
春の夕の雨の名こりを 宥任
141 大内殿内連歌師隆治 夏の日の
蚊遣火
夏の日のあつさわするゝ夕とも
しらすやいかに蚊遣火の影 隆治
142 大内殿内連歌師隆幸 花にそむ
秋露
花にそむ露こそあらめいかにして
なみたも袖に秋をしるらん 隆幸
143 大内殿内連歌師隆辰 秋のかせ
庭荻
秋のかせちきりし庭の宿からに
つゆは結す軒の下おき 隆辰
144 大内殿内連歌師隆通 うらなれて
旅宿重夜
うらなれて幾夜あかしの旅の宿に
とまるや道の関し成らむ 隆通
145 大内殿内連歌師隆毎 ふミ分る
谷雪
ふミ分る人としもなく白妙の
雪のミうつむ谷のほそ道 隆毎
146 大内殿連歌師光成 みよし野や
故郷鶯みよし野や雪のふる里道絶て
春は跡あるうくひすの声 光成
147 大内殿内連歌師順覚 あたし世と
夢
あたし世とおもひなからもかき曇る
やミのうつゝの夢をしそおもふ 順覚
148 大内殿内連歌師秀満 嶺高み
夕霧
嶺高みいさよふ雲をたよりにて
たなひきつゝく夕霧の影 秀満
149 大内殿内連歌師弥了 しきたへの
埋火
しきたへの枕さえたる暁に
たのめはすこしぬるむ埋火 弥了
150 大内殿内連歌師儼智 この比は
時雨
この比はしくれかちなる四方の空に
またそめやらぬ木々の紅葉々 儼智
151 大内殿内連歌師善弘 夕まくれ
夕虫
夕まくれ露はいとはし虫のこゑの
ちかき霜夜をうらミとやなく 善弘
152 大内殿内連歌師興弐 けふあすに
忙
けふあすに暮ぬる年をみな人も
おなし心の色や見ゆらん 興弐
153 大内殿内連歌師隆所 ときはなる
暮春
ときはなる松にかゝりて咲藤の
花もちとせの春やへぬらん 隆所
154 大内殿内連歌師興村 はれ行か
五月雨晴はれ行か吹方かハる夕風の
雲間は月の五月雨の空 興村
155 大内殿御同朋柳庵 露時雨
紅葉霜
露時雨千しほにそむる紅葉はの
くれなゐうすくをける霜かな 柳庵
156 大内殿御同朋吉阿 むら竹の
霰
むら竹のうちなひきたる窓のまへに
ふるをとたかき玉あられかな 吉阿
157 周防山口住大守坊良雄 おりしありと
朝更衣
おりしありと今朝たちかへてうす衣
ひとへに夏の色やみすらん 良雄
158 周防山口神宮寺長老春誉 しつかなる
暁
しつかなる心を窓のたよりにて
学ふみちしや暁ならし 春誉
159 山口住日誓聖人 みちのくや
牧春駒
みちのくや野くれ山くれ春かすミ
こゝろひかるゝ牧のあら駒 日誓
160 成満寺弥阿 ほとゝきす
郭公
ほとゝきす有明の月の一声に
こゝろのゆかぬ山端もなし 弥阿
161 周防山口条福寺快雅 おひ立て
寄松祝
おひ立ていく枝茂るや千代の松
みな祝言に友なひそゆく 快雅
162 義隆公 小槻官務伊治代筆
社頭霞春の色は今そみかさの山高ミ
かけてかすめる峰の松原 義隆
163 慈鎮和尚
蓬莱事
男外女といふハおさなき童又女也、徐福海
をすきて平原広沢といふ所にとゝまりぬそ
164 明智日向守殿光秀
書状披見候
一、道今明日中可出来候由尤候
165 解脱上人
或ル仏頂随□者以五仏頂明為一大
□即為四段一□仏頂二普□成就
仏頂段三□傘□仏頂并□仏頂明
可弁申仏頂段□□
□□□□
166 弘法大師
是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増
不滅是故空中兂色兂受想行識兂眼
167 連歌師心敬
一親句におひて二儀あり、一ニハ響の親句、二ニハ
正親句也、響の親句につゐて又二種あり、
一ニハ五音相通、二ニハ五音連声なり、五音相
通ハゆゝしき秘事也、五音連声ハ五七五七
の句のうつりのひゝきのきれいる歌ハ命なき歌也、
ほの/\とをちの外山にきなくなりしはしかたらへねくら
さためて
168 (極札なし)
雪窓 □□(朱印)
169 雪窓 龍宮 此の弐枚極札無之
竜宮浪動群魚従鳳羽雲
170 見わたせは 中院源通茂 狩野縫殿之助
見わたせは柳さくらをこきませてみやこそはるのにしきなりける
171 きかすとも 野々宮源定縁 吉川了也
きかすともこゝろをせにせんほとゝきす
山田のはらの杉のむら立
172 長門なる 花本祖白 山本素程
長門なるあふの郡の杣板ハもろこし人のすさめなりけり
173 張良 伏原清宣幸 住吉内記
張良遊下邳圯上有
一老父直堕其履
圯下顧謂良曰孺子下
取履良愕然欲欧之
為其老迺疆忍取履
因跪進父以足受之
曰孺子可教後五日平
明与我期此良諾
及期示一編書曰読
是則為王者師終佐
漢封万戸候
174 むかふ津の 堀川藤康綱 海北友雪
むかふ津のおくの入江のさゝ波ハのりかくあまの袖やぬれけん
175 世中を 河野源季信 住吉内記
世中をいとふまてこそかたからめ
かりのやとりをおしむ君かな
176 かくてのミ 一乗院御門跡 海北友雪
かくてのミやむへき物か千早振かもの社の万代を見む
177 二葉より 聖護院御門跡 狩野貞実
二葉よりたのもしきかな春日山
木たかき松のたねそとおもへは
178 とやに入 花本祖白 吉川了也
とやに入八日やくしの日なれはや鷹に羽むしの薬かふらん
179 たくれ見る 正親町藤公通 山本玄体
たくれ見る松のあらしやたゆむらん
おのへにかへるさはしかのこゑ
180 わけ入て 鷲尾藤隆尹 山本素程
わけ入て袖にあハれをかけよとてつゆけき庭にむしさへそなく
181 さゝ波や 河野源季信 狩野貞実
さゝ波やうちいてゝみれは白妙の
瀬田の長橋雪をかけたる
182 浮田殿秀家公 鴈飛碧落
鴈飛碧落書青紙
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183 八条殿智仁親王 たのめつゝ
たのめつゝこぬ夜あまたになりぬれハ
またしとおもふそ待にまされる
184 日野殿輝光卿 音はして
音はしていさよふなミもかすみけり
やそうら河のはるの明ほの
185 日野殿輝光卿 君か代は
君か代は千世にひとたひゐる鹿の
白雲かゝる山となるまて