1 天台院
※地名は小説中での表記を引用しています。…住職は照れ臭いので顎を撫でて庭の方を見た。名も知れぬ小禽(ことり)が春日燈籠の上にとまって、チ、チ、チと啼いている。秋たけた庭は柿落葉が散りしいて掃いても掃いてもうず高いのだ、落葉焚く季節ともなれば、生駒山系は山襞(やまひだ)までくっきりと見えて、その山から飛んでくる百舌鳥が天台院の庭の柿を啄(ついば)みに来るのだ。殺生禁断の五十坪の庭だと知っているのだろう…
(巻之二所収 「真言秘密の法」より)