12 村有墓地(中野・山本共同墓地)
※地名は小説中での表記を引用しています。…「まあ。こんなところに」 お久は声を出して独り言をいった。ほん直ぐ斜め向かいに安やんの墓が苔むして、しかも少しく傾いて立っている。「まあ。つい御近所だんな言うてはるやろ。これがわてのお父うかいな」 お久は安やんの貧弱な石塔を眺めた。脆(もろ)い和泉石のために方々が欠けて、かえってざんぐりとした味になっている。お久は誰も参って呉れそうもない安やんの墓の夏草をも引き抜いた。そしてお母んの墓に供えた線香を半分にすると、残りの半分を安やんに供えるのであった…
(巻之一所収 「河内の顔」より)