13 御野県主神社(みのあがたぬしじんじゃ)


 東光のお気に入りの場所だったようで、作中にも登場します。天台院が手狭になった関係もあり、東光は昭和34(1959)年から、千葉県佐倉市に転居する昭和50(1975)年まで、ここから少し南に行ったところに居宅を構えました。

※地名は小説中での表記を引用しています。
…この書斎は山本も真中ぐらいのところで、浅吉親分が探して来た家※だった。二階の書斎からは生駒山系が一望のもとに眺められ、七年振りに漸(ようや)く河内の風景を見られる家に住むことが出来るようになった。
 読書に飽きると杖を曳いて散歩したが、あまり人にも行き会わぬ閑散な住宅地で、人それぞれに住みなしている心憎いばかりの邸宅を見て廻るのも気持ちがよかった。少し北の方に歩みをすすめると、こんもりとした森があり、本殿、拝殿など形のごとく整っているが、社務所らしい建物は雨戸が閉って人の気配もない。鳥居の扁額(へんがく)を見ると、御野県主神社と読まれた。人気のない社の境内は雑草が離々と生え繁り、その雑草の間に小さな摂社の祠(ほこら)が建ち並んでいる…
※昭和三十三年に東光が天台院から最初に転居した家

(巻之二所収 「狐物語」より)