本巻でとりあつかう原始・古代は、地球上に人類が出現した時から始まる。すなわち京都平野に人間の営みの痕跡が確かめられる時から歴史が始まり、集落を形成し、やがて政治的にまとまったクニ(国)に発展する。さらに日本列島を統一したヤマト王権国家が成立し、先進地中国王朝との交渉を通じて東アジア社会の一員としての律令国家へと推移してゆく。原始社会から古代社会への変貌(へんぼう)であり、その下限は一二世紀代にまで及んでいる。原始社会は考古学であつかう無文字時代の先史・原史時代である。すなわち石器の使用に始まる旧石器時代、土器を使用するようになった縄文時代までの先史時代。これに続く弥生時代はムラ(集落)が形成され、原始的なクニへとすすみ、さらにそれらの政治的統合へと発展してゆく。西紀三世紀代には中国の史書に記された邪馬台国(やまたいこく)連合が西日本に成立するまでになっていた。弥生時代はわずかではあるが中国の歴史書に日本列島の動向が断片的に知られる原史時代にあたる。そして三世紀後半までには近畿にヤマト王権が成立して北部九州までを含む連合政権が出現した。七世紀後半は古墳時代の終末期であり、古代社会の始まりでもある律令国家の形成期であった。八世紀代は奈良時代、九世紀以降は平安時代という文献史料を中心とする時代呼称で周知されているところである。律令国家が確立し、さらに日本的特徴を加えて変質をとげつつ充実した王朝国家が展開するが、やがて武家社会の時代(中世)へと政治の主座をゆずってゆくことになる。ここに古代社会は終焉(しゅうえん)を迎えて本巻の叙述は終了する。
上述した原始・古代のなかの時代区分は、考古学的立場から生活用具によって区分された先史時代(旧石器・縄文時代)。金属器(青銅器・鉄器)の使用と生産活動(水田稲作)で特色づけられる弥生時代。巨大な前方後円墳に象徴されるヤマト連合政権の政治史的視点から設定される古墳時代を合わせた原史時代。文献史料中心の政治史的観点で一貫する古代の順に構成されている。したがって通じて同じ視点からの時代区分でない点に歴史学としての不統一性がみられることはいたしかたないであろう。