人類の歴史を考える場合、人類の進化は自然環境と文化環境という二つの異質な環境への適応と淘汰(とうた)によって進展してきたとする見方がある。霊長類学の研究者河合雅雄(かわいまさを)氏の提言は、人間の歴史の考え方に多くの示唆を与えてくれる。すなわち、人類は人間と環境が相互に作用しあう創造的進化の舞台を拓(ひら)いた。生物の世界には善も悪もないが、人間は文化をもつことによって悪の扉を開くこととなった。言いかえれば人間は文化環境という進化の舞台を設定したことで、反自然的存在となり他の生物とは別の進化過程へとすすんでゆくことになったのである。約四〇〇万年前とも六〇〇万年前ともいわれる太古の昔に誕生した人類は、生態系の一員として狩猟(しゅりょう)・漁撈(ぎょろう)・食物採集生活を営む段階(先史時代)に始まり、やがて農耕社会に突入する農業革命、工業革命(原史時代・歴史時代)へと進展して現代に至った。かくして人間は〝無敵の肉食獣〟となったが、一方では人口爆発を起こして地球資源を食いつぶし、自滅への扉を開くという代償を支払わねばならなくなった。河合雅雄氏は人間が動物と決定的に異なる特徴に「自己破壊」をあげている。これが人間個体に向かえば自殺であり、集団に向かえば戦争として表現されることになる。
上述した生物学的立場からの人類史の巨視的評価は、地域史に取り組む場合にも留意しておくことでさらに新しい発想が生まれるヒントにもなるであろう。