旧河川地区から出土した木製品は、先の一号土坑から出土した鍬未製品も含めて次のようなものがある。
諸手鍬は、片側が平鍬、反対側は股(また)鍬になり、中央に柄を差し込む孔がある。土を掘り起こすための耕具である。
広鍬未製品は、全部で三点が出土している。このうち一号土坑から出土した未製品は、二つに切り離す以前の段階のものである(図33の1)。少なくとも長さ〇・九三メートル、幅〇・二三メートル、厚さ一〇センチメートルの板材を手斧でコツコツと削って作っている。元の材木が直方体の板材だとすると、製品にするためには、半分以上は削り取らなくてはならない。特に、全体に反りをつけ、柄を装着する孔の部分を厚くして強度を増す工夫をしているが、それも全部削り出して整形している。この広鍬未製品は、二つ作る予定のものを刃先側で合わせて同時に作っているが、最初から一個ずつを作るのではなく、途中の工程まで複数を連結して作る方法は北部九州に少なく、本州に多く見られる作り方である。広鍬は主に土を掘り耕す際に使用される。
連結した未製品はほぼ形ができ上がった段階で切り離されるが、その段階のものも出土している(図33の1・2)。
横鍬も未製品が一点出土する。おそらくこれから角を削り取って丸い鍬にするのであろう。広鍬に比べると、打ち込んでも深くに入らないから田を鋤(す)くようなときに用いられる。広鍬に比べ強度が落ちても構わず、むしろ鍬についた土を扱いやすくするためには軽い方が良い。そのためかこの横鍬未製品は重いカシでなく、それよりも少し軽いバリバリノキを使用している。
鍬のような耕具の柄になる木製品がある(図33の3)。五点出土している。
耕作具だけでなく、生活雑器も出土している。案(あん)は、脚が付く台である。長方形の天板に二枚の八字形に踏ん張る脚が付いたものである。これは、天板の中間から半分に割れたものである。案を作るとき、いちばん簡単に作るために、天板と脚部をそれぞれ板材で作って組み合わせる方法をとる。しかし、この案は一木を削り出して天板も脚も一体にした手の込んだ作りをしている。生活用品らしく、天板の脇と中央に装飾の彫りがなされて洒落気(しゃれっけ)が見える。椀(わん)もある。木を丹念に繰り抜いて作られ、握り手となる突起も削り出されている。
その他に、竪杵(たてきね)や箸(はし)・建築部材なども出土している。