木製品素材の定番はカシである。木製品にカシが好まれる理由は、それが硬くて加工しても壊れにくいという点と、身近な丘陵地や適潤地に生息していて入手しやすい点である。
下稗田遺跡で発見された木製品の素材でも、いちばん多いのはカシである。カシ以外にも、シイノキ・バリバリノキ・マンサクなど一五科一九属に及ぶ木材が使用されていた(林弘也「2 下稗田遺跡から出土した木製遺物に使われていた木材の樹種」『下稗田遺跡』所収、一九八五)が、それらはいずれも丘陵地や適潤地に生息する広葉樹であった。
少数ではあるが、エノキ・エゴノギ・フサザクラ・イロハモミジなども素材にしており、基本的に身近に生えている樹木はすべて木器の原材料になったと考えてよいであろう。しかし、やはり広鍬や鍬の柄、杵などの強い衝撃に耐えなければならない木製品には、カシが選ばれている。
杭(くい)などは、本来ならばカシのような堅い木を使用すべきところであるが、身近な樹木を使っている例が目立つ。杭の樹種だけを見ても、カシ・シイノキ・エノキ・エゴノギ・フサザクラ・マンサク・ニワトコなど、さまざまな種類の木が使われている。最近、福岡県小郡市の力武内畑遺跡で、弥生時代前期の井堰が発見されているが、それに使われた数百本の杭のほとんどがカシであった。強い流れを食い止める杭と、単に仕切るためだけの杭とは材質が違うのであろう。
カシを切り離し加工するには、道具も優れていなければならない。カシは長持ちしなければならないとか、強度が必要であるといった、特に重要な木器にのみ選択的に用いられたのかもしれない。
カシは一年中緑の葉をつけた常緑広葉樹で、日本では沖縄から関東地方が繁殖地域である。夏雨が多く、冬はあまり雪が積もらない、年平均気温が一三度前後のところで、主に丘陵台地などに繁茂するが、今では伐採が進み神社の杜(もり)くらいしか見られなくなっている。