木製品に残る加工の痕

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 大工道具の研究によれば、原木から板材を切り出すのに鋸(のこ)が使われるようになったのは江戸時代からである。鋸そのものは古墳から出土しているのでその使用はもっと古くまでさかのぼるが、その鋸が使用されたのは細い木の細工程度で、大きな板材を取るのは、斧で割ったり、くさびを打ち込んで割ったりする方法である。旧河川地区の大型木製品の未製品をみると、元の木は太さが一メートル近いのではないかと思われる。こうした木を根気よく太型蛤刃石斧で切り倒したのであろう。落雷などで折れた木は、格好の材料になったと思われる。
 こうした板材から製品に仕上げるのであるが、まずは大まかに製品の大きさに成形する作業がある。長すぎる板材は適当な長さにするが、その作業は板の片側、あるいは両側に刻みを入れてそこから折り取っている。その次は、はつる作業である。大半は手斧によって行われた。
 作りかけの板材には、道具の痕跡が残っている。下稗田遺跡出土の鍬未製品の表面には、写真21のように連続的に手斧を打ち込んだ鋭い刃先の痕跡が見られる。何度も何度も剥がれていて、より深く打ち込まれた打撃痕や、最後の打撃痕のものを見ると、この工具の幅は二・七センチメートルになる。
 
写真21 未製品の表面に残る手斧の削り痕跡
写真21 未製品の表面に残る手斧の削り痕跡

 この幅で刃先が直線のものとなると、扁平片刃石斧の類であろう。扁平片刃石斧に柄をつけたもので削っていたのである。鉄斧には板状鉄斧のようなものもあるが、この時期(前期中頃)には一般的ではない。
 板材ではなく棒状の製品もある。これは立っている木のうち、比較的細いものを太型蛤刃石斧によって切り取ったものである。
 棒状の木材を使った製品には、杵(きね)・鍬の柄などがあるが、これはやはり片刃石斧で細工している。棒状の木材でいちばん多いのは杭である。これは先端を削るだけの加工をしたもので、周囲の樹皮をそのまま残したものも多い。