1 金屋(かなや)遺跡(行橋市大字金屋字金屋)

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 中世集落遺跡。国道一〇号線行橋バイパス建設工事に先立ち、福岡県教育委員会により、発掘調査が実施された。調査期間は、平成二(一九九〇)年四月一日から七月三一日まで。道路工事により遺構が影響を受ける約四七〇〇平方メートルについて記録がとられた。調査地は、旧豊前国仲津郡に属した地域であり、地名の「金屋」は、中世の鋳物職人が集住していたことに由来する。一五世紀前半に活躍した藤原姓「今居鋳物師(金屋鋳物師)」による梵鐘・鰐口などが、北部九州から山口県にかけて分布することで知られている。中世に繁栄したとされる祓川河口周辺の港湾「今居津(今井津)」の中心に近い集落で、西側に江尻川、南西側に羽口川、東側に祓川が流れる。周防灘に河川が注ぎ込む河口付近に位置する地域で、調査地の立地は、標高三~四メートル前後の旧海岸砂丘状堤防上にある。調査地の南東側に金屋地区の村社である春日神社が鎮座する。現在の国道一〇号線行橋バイパスの「金屋交差点」周辺にあたる。周辺には中心となる遺構がなお分布すると推定され、将来の開発の際には注意を要する。発掘調査された遺構は一五世紀代の室町時代のものを主体としている。そのほかに、近世では江戸中期、明治、大正、昭和まで重複している。Ⅰ区とⅡ区から検出された遺構は次のとおり。素掘井戸六、石組井戸四、井戸桶二、陶管(土管)四、コンクリート五、竪穴住居跡三、溝状遺構二〇、土坑二〇、鍛冶炉二、建物四以上、柱穴群。特筆されるのは、室町時代の鍛冶炉跡、そして、豊前地方の大内氏支配時代をうかがわせる防長系足鍋、防長系擂鉢、貿易陶磁(中国製・朝鮮製)、銭貨といった遺物である。物流と鋳物師の生産遺構を考古資料から知る上で重要な遺跡である。
 
図5 金屋遺跡1号鍛冶炉実測図(S=1/50)
図5 金屋遺跡1号鍛冶炉実測図(S=1/50)

図6 金屋遺跡出土足釡・茶釜実測図(S=1/10)
図6 金屋遺跡出土足釡・茶釜実測図(S=1/10)