井出樋と汐樋・水吐樋

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 いうまでもなく、利水には取水口と排水口が必要である。そこに設けられた導水管を「樋」と呼んだ。「樋」は、原則として井樋方が管轄する公営施設であったが、村内の用水路の樋などは村方で設置した。樋の材料は、石よりも木が圧倒的に多く使われた。木製の場合は松など腐りにくい木を用いたが、やがては腐って漏水するので、公設樋も管理は村が行い、井樋方に定期的に交換を申し出た(村方も井樋方も井樋台帳を所有)。時期が来れば、井樋方から新樋との交換を命ずることもあった。古樋は返還する規定であったが、場合によっては返還せず、「古樋代」を上納してこれを買い取り(村所有とする)、補修して村内用水路の樋などに転用することも多かった。洪水などで樋が流出し行方不明になった場合は、樋が藩有物だけに事後処理が大変であった。公設の樋を補修したり交換するにはいちいち藩の許可が必要であったが、そのおかげで、表12に示す程度ではあるものの、本市域内にあった井樋などの設置場所、樋の種類、規模などがわかった。ただし、これらを設けた井堰を、図17上で確認することはできなかった。大橋村や宮市村は現行橋市の中枢部に位置するので、都市化にともない消滅したものであろう。なお、「井出樋」は河川に設けた取水口で、「汐樋」、「汐吐樋」は干拓地に設けた排水口、「水吐樋」は干拓地以外の排水口で、尻戸の「招き」は自動開閉式の戸をさすのではないだろうか。
 表12は、取水口・排水口ごとに、寸法が長い樋から順に書き上げたものである。井出樋では、最も長いものは沖新地の一一間(約二〇メートル)、最も短い樋でも秋丸の二間(三・六メートル)で、かなり長い導水管であったことがわかる。
 
表12 史料から確認できる本市域内にあった樋(取水口・排水口)
設置場所樋の種類長さ内法備考
高さ
(間)(尺・寸)(尺・寸)
沖新地井出樋1艘11.01.81.5口戸あり
寺畦前小部ノ田井出樋1艘7.52.52.0口戸あり
溝添井出樋1艘7.02.01.6口戸あり
高畠井出樋1艘7.01.31.0口戸あり
法師丸井出樋1艘 ①6.02.31.2口戸あり
秋丸井出樋1艘2.02.01.5 
住ノ江行司口汐樋1艘11.01.52.2松戸あり
沖新地汐樋1艘  ②7.53.12.5内外ともに戸あり、尻戸は招き
西ノ口汐樋1艘4.02.01.5口戸・尻戸あり
寺畦前小部ノ田汐吐樋1艘2.02.02.0尻戸は招き
にんけ水吐樋1艘2.01.30.8口戸あり
国作手永大庄屋「御用日記」より作成
(注)①この樋は長さ6間・内法横1尺1寸・高さ1尺2寸であったが、内法が狭く水通が悪いので寸法増を願い出た。
②この樋は長さ8間半・内法の高さ2尺6寸であったが、長さを1間減らし、内法は高横ともに5寸増を願い出た。

 樋の内法(うちのり)では、寺畦前小部ノ田の横二尺五寸(約七六センチメートル)・高さ二尺(約六一センチメートル)が最も大きく、高畠の一尺三寸(約四〇センチメートル)・高さ一尺(約三〇センチメートル)が最も小さい。以下メートル法で表すと、汐樋の長さは約二〇メートルから七メートルであり、内法は沖新地の九四センチメートル×七六センチメートルが最も大きく、住ノ江行事口の四六センチメートル×六七センチメートルが最も小さい。比較的汐樋の口径が大きいといえよう。なお、沖新地の井出樋・汐樋は、高潮や洪水の被害によって破壊され流失することが多く、定期の交換を待たずに再設置されることが多かった。また、樋の入り口には取水量調節のための「口戸」を設けたが、出口の「尻戸」は必ずしも設けなかったようで、表12でも西ノ口と沖新地だけにあった。「尻戸」は、おそらく逆流を防ぐための施設で、通常は設置する必要がなかったと考えられる。
 また、法師丸では、天明七年(一七八七)に、「法師丸井出口川原堀川」、「大手切口」、「砂除け」、「内坪」の四ヵ所で溝浚えの工事を行った。これによると、井出口川原堀川の規模は長さ一三〇間(二三四メートル)・横幅三間(五・四メートル)・高さ九〇センチメートルで一九五坪の広さがあり、以下メートル法で記すと、大手切口が地置五・四メートル、長さ九メートル、高さ三・六メートル、築留一・八メートル、坪にして二〇坪、砂除けが長さ一八〇メートル、横幅二・七メートル、深さ一・八メートル、一五坪、内坪が長さ三六〇メートルで、それぞれの工事に必要な夫数は、三九〇、一八〇、一二〇、一〇〇人、合計七九〇人であった。これによって法師丸が相当大きな井出であったことが知られる。
 なお、文政六年(一八二三)九月、新地の水かかりが悪いという理由から、今川土手に新井出溝を設ける願書が出され、翌年春に工事が行われた。そのほか、史料上に現れる樋としては、矢留村「車田」の「渡樋」、竹並村の「さや木井出樋」がある。「渡樋」はどのような樋かはっきりしないが、脇から取水する際の樋ではないかと考えている。