町村制下の議会制度

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 町村制下の新しい行政村は自治体として法人格が認められた。村民選出の議員による村会が設置され、村長は村会議員の互選によって選ばれることになった。村民による選出といっても、有権者は地租あるいは直接国税二円以上を納める者に限られ、土地を所有しない小作人は排除された。逆に、村に住んでいなくともその村税の多額納税者(つまり不在地主)には選挙権が与えられた。しかも、選挙権を有する者の中でも差別があった。村税の総額の半分を納める多額納税者(一級選挙人)が村議の半分を選出し、それ以外の選挙権者(二級選挙人)が残り半分を選ぶ仕組みであった。一人の大地主が村税総額の半分を納めていれば、一人で半数の議員が選べるわけである。しかも、二級選挙が先に実施されることになっていたから、一級選挙人はその選挙結果を見て議員を選ぶことができた。有産者(地主)に徹底して有利な選挙制度であった。
 この村会は村の最高の意思決定機関として、村の権能として決められた委任事務や固有事務のすべてを議決する権利をもち、さらに行政監査権、意見提出権、選挙執行権などを手にした。村長はその議決の執行者と規定された。この村長は名誉職とされ、無給であった。
 しかし、このように村に自治権が与えられた反面、郡長や府県知事、内務大臣の監督権も強化された。村長や助役の認可、指定事項に対する議決の許可権、村会の議決の停止権、村吏員に対する懲戒処分権、強制予算制度などがそれである。とくに村長に委任された国政事務(具体的には兵役、戸籍、土地収用、伝染予防、小学校など)は、村会と無関係に上級機関の指揮命令を受け、村長は事務完遂の義務を負った。後に見るように、役場事務はこれらの委任事務が大半を占め、その経費も村財政の過半を占めるのである。
 町村制下の新しい行政村は、増大する事務負担と経費負担に耐える組織と能力を要求されたにもかかわらず、その財源はほとんど何も与えられなかった。政府は町村財源が国家財源を侵食するのを警戒していたからである。町村財源として政府が考え出したのは、使用料、手数料収入のほか、町村基本財産を造成し、その収入で経費を賄うこと(不要公課町村)であり、租税収入は補助的手段とされた。したがって町村税は、特別税については厳しく制限されて事実上国税府県税の付加税にほぼ限定され、しかもその付加税は地租の七分の一、その他一〇〇分の五〇以下の制限を受けた。