行橋の農村ではこうした地域ほど悲惨な状況ではなかったが、農産物価格の下落で農家経営は急速に悪化している。福岡県の自作農の所得を、大正一〇年(一九二一)を一〇〇とする指数で見ると、昭和四年(一九二九)には六一にまで下落していた。所得が四割も減少した勘定だ。農産物価格の下落によって所得が減少する一方で、図4で示したように農家の購入品はそれほど低下しなかったから、農業経営は悪化の一途をたどった。表12によって、今元・椿市・稗田各村の昭和八年の収支と負債状況を見ておくと、各村とも大きな赤字を出しており、農家負債は総額で三〇万円を超えていることがわかる。一戸当たりで見ると、椿市・稗田の両村では負債は九〇〇円を超えている。稗田村では三七五戸のうち租税未納者が一四一人に達していた。今元村で預貯金が負債を上回り、一人当たり負債額が少ないのは、そ菜生産の成功が大きく寄与していたからであろう。しかし、この今元村でさえ、昭和八年には一戸当たり一八五円もの赤字を出していた。
表12 今元村・椿市村・稗田村における農林漁業者の収支負債預貯金(昭和8年) |
(単位:円) |
事項 | 村全体 | 農林漁業者 | 農林漁業者1戸当たり |
今元村 | 収入 | 404,446 | 307,790 | 570 |
支出 | 454,735 | 407,690 | 755 |
差引 | -50,289 | -99,900 | -185 |
負債 | 316,300 | 286,300 | 530 |
預貯金 | 372,000 | 302,000 | 559 |
椿市村 | 収入 | 249,103 | 213,852 | 668 |
支出 | 288,000 | 247,132 | 772 |
差引 | -38,897 | -33,280 | -104 |
負債 | 337,270 | 290,880 | 909 |
預貯金 | 113,550 | 41,610 | 130 |
稗田村 | 収入 | 286,959 | 281,319 | 791 |
支出 | 315,225 | 308,225 | 856 |
差引 | -28,266 | -26,906 | -65 |
負債 | 338,807 | 338,200 | 939 |
預貯金 | 109,550 | 10,850 | 301 |
出典:福岡県経済部『経済更正計画実行状況に関する調査』昭和13年3月 |
しかも、これらの負債の多くは、表13に示したように、個人(=高利貸し)からの借り入れであったから、農民は高利の負担に苦しむことになった。表14はそれをよく示している。これによれば、金利一二%以上の借金が借金全体の四四%に達している。
表13 京都郡農家の借入先別借入高 |
(単位:円、%) |
種別 | 金額 | 比率 | 人員 | 比率 |
勧業銀行 | 204,235 | 9 | 258 | 6 |
銀行 | 55,501 | 2 | 64 | 1 |
個人 | 1,258,680 | 56 | 2,018 | 47 |
頼母子講 | 608,136 | 27 | 1,449 | 34 |
無尽会社 | 59,408 | 3 | 170 | 4 |
質屋 | 2,500 | 0 | 29 | 1 |
その他 | 76,184 | 3 | 278 | 7 |
合計 | 2,264,644 | 100 | 4,266 | 100 |
出典:福岡県信用組合連合会『福岡県下農家負債調査』 |
備考:信用組合を除く |
表14 京都郡農家の借入金利別借入高 |
(単位:円、%) |
金利別 | 金額 | 比率 | 人員 | 比率 |
8%未満 | 283,476 | 18 | 453 | 17 |
8-10% | 110,315 | 7 | 196 | 7 |
10-12% | 543,373 | 34 | 808 | 31 |
12-15% | 548,006 | 34 | 898 | 34 |
15%以上 | 109,430 | 7 | 263 | 10 |
合計 | 1,594,600 | 100 | 2,618 | 100 |
出典:表13に同じ |
備考:信用組合、頼母子、無尽会社、質屋を除く |