明治前期の豊前の物流と行橋

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 行橋が商業地となったのは、延宝二年大橋で六斎市が開かれてからである。以後、豊前地方の物流の結節点として発展し、飴屋(玉江家)や柏屋(柏木家)などの豪商が輩出した。明治一一年頃には、行事では農業八〇人、漁業六人に対し、商業が二八〇人、大橋では農業一七九人、雑業八三人に対し、商業が二〇九人に達していた(以上『京都郡誌』)。表33に示したように、明治一五年の京都・仲津郡の商業者が二〇〇〇人ほどであったから、およそその四分の一の商人が行事、大橋に集中していたわけである。
 
表33 明治前期の京都・仲津郡の職業別構成(明治15年)(単位:人、%)
地域農業 工業 商業 雑業 その他 合計
比率比率比率比率比率
京都郡10,61584375361658597123112,588
仲津郡14,0647670741,41082,02611245118,452
京都郡・仲津郡24,679801,08232,02672,8859368131,040
福岡県425,2316535,337570,71111115,728186,4441653,451
出典:明治15年『福岡県統計書』

 行事、大橋を合わせ五〇〇人にも達する商業者はどのような商業に従事していたのであろうか。当時の商品流通の状況からこの点を見てみよう。表34は明治一〇年の豊前の輸出入を見たものである。ここで輸出・輸入というのは外国への輸出あるいは外国からの輸入ではなく、大阪や福岡など県外との取引(移出入)を指している。同表によれば、豊前からの移出品は米が全移出物産の七三%を占め、生蝋、石炭、櫨実がそれに次いでいることがわかる。一方、移入品はきわめて多様である。綿、呉服、太物、藍、酒、魚類、荒物、大豆、種豆、舶来衣類、薬種、小間物、黒砂糖などが上位を占める。豊前の人々は、米と蝋製品と石炭を移出し、衣類を中心に様々な生活用品を移入していたことがここからうかがえる。
 
表34 明治10年の豊前国輸出入内訳表(単位:円、%)
輸出輸入
種別豊前合計A大橋行事豊津BB/A種別豊前合計A大橋行事豊津BB/A
 比率 比率 比率 比率
489,76273194,4008540綿90,817158,11049
生蝋50,171732,9001466呉服72,1591238,0001753
石炭24,5004 00太物45,229723,7001052
櫨実19,5783 0034,224610,526531
石灰12,5002 0030,01257,913326
菜種11,6582 00魚類23,500413,500657
小麦10,9002 00荒物類22,534413,100658
9,8001 00大豆20,73336,439331
6,3001 00種油20,43839,740448
干鰕4,4001 00舶来衣類17,0003 00
白土3,6001 00石炭油13,84726,620348
3,4761 00魚油13,54625,000237
糯米3,0910 00薬種12,36728,600470
煽石2,9520 00唐糸12,33722,990124
2,5500 00小間物11,96224,100234
牛馬皮2,38802,000184乾物11,89125,200244
2,2950 00黒砂糖11,17724,480240
石殼1,9200 00材木9,98525,500255
1,5300 00白砂糖9,59823,628238
大豆1,2900 00古着9,50024,500247
七嶋表1,2750 00下駄緒類8,58112,800133
1,1000 00醤油7,2481 00
1,0190 00食塩7,19411,120016
船苫5000 00肥糞類7,153138005
葛粉30003000100陶器磁器7,11613,380147
2700 00巻煙草6,91013,525251
木炭2500 006,16012,160135
硯石2500 00鍋釜5,66212,500144
甘藷2100 00畳表5,65414,300276
醤油1130 00舶来細物5,62411,690130
1060 00紙類5,27512,500147
漬物1050 00素麺4,7881 00
牛馬骨600 00袋煙草4,6031 00
鶏卵220 00塩魚4,05013,800294
      葉煙草3,57411,120031
      干魚3,57313,300192
      3,4451500015
      蒟蒻玉3,28713,260199
      3,00801,820161
      小豆2,79801,205143
      松魚2,62802,250186
      宇治茶2,2470724032
      銅銕器物2,10001,500171
      書籍1,8000800044
      漆器1,80001,8001100
      芋麻1,5450  0
      箪笥1,0950  0
      唐芋9350685073
      筆墨8720 00
      古道具8000 00
      戸障子79007900100
      生糸7000 00
      木炭6000 00
      5800 00
      牛馬皮3850 00
      足袋3000 00
      手拭3000 00
      稲千歯2100 00
      牛馬骨1650 00
      800 00
総計金額670,242100229,60010034合計618,489100229,55510037
出典:『福岡県勧業年報』

 さて、こうした商品の移出入は五地域でなされていた。小倉・曽根・平松、椎田、八屋・宇島、赤地、そして行橋(大橋、行事、豊津)である。このうち、行橋から米の四〇%、生蝋の六六%が出荷されている。これは豊前の物産の出荷額の三分の一に当たる。移入のほうは、綿を除く主要移入品の三割から六割ほどが行橋に入荷している。これは豊前全体の移入額の三七%を占める勘定である。