行橋-伊田間開通

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 鉄道会社と炭鉱会社合併後の新しい豊州鉄道会社社長には吉沢直行が就任したが、二七年七月には関西財界の重鎮松本重太郎に替わり、村野山人が総支配人となった。新経営陣は表5のようになった。松本は第百三十国立銀行頭取のほか多数の銀行に関係し、鉄道でも山陽鉄道などの重役として、鉄道経営にも精通していた。福島が旧田川採炭社長、桑原が同取締役であったことは前に記したが、両人は元大阪藤田組の社員であった。監査役の田中・西田は大阪の豪商で、九州鉄道の重役でもあった。新会社は株主においても、経営面でも関西中心の体制となった。
 
表5 豊州鉄道の役員(明治27年)
役職氏名住所備考
社長松本重太郎大阪市第百三十国立銀行頭取
取締役福島良助兵庫県 
桑原政大阪府 
守永勝助企救郡小倉町小倉豊陽銀行取締役
中野松三郎大分県中津町中津銀行監査役
藤金作糟屋郡篠栗村衆議院議員
監査役田中市兵衛大阪市九州鉄道取締役
西田栄助大阪市九州鉄道監査役
堤猷久京都郡行橋町衆議院議員
   筑豊興業鉄道取締役
総支配人村井正利兵庫県 
第一部長斎藤美知彦企救郡小倉町九州鉄道監査役
第二部長千早正次郎 田川採炭坑
第三部長福島良助 
 (三部長は重役)  
兼勤顧問井上勝  
出典:『日本全国諸会社役員録』1・2、柏書房
注:備考は上記およびその他

 地元豊前では、小倉の守永・斎藤、中津の中野と行橋町から堤猷久が重役に名を連ねた。堤は重役陣に九鉄関係者が多い中で唯一の筑豊興業鉄道関係者(取締役)であった。しかし豊州鉄道と筑豊興業鉄道の線路敷設をめぐる争いからか、二八年五月までには退き、九州鉄道取締役の井上保次郎(大阪)と交替した。
 経営陣は一新したが、日清戦争により再び行き詰まり、幹線である行橋-四日市間を後回しにして、支線の行橋-伊田間の敷設を急ぐことになった。全線を一二工区に分けて指名入札を行い、大阪土木会社などが落札して六月一五日起工した。工事方法は創立出願した時の趣旨に従い施行するとした。その工事方法とは、左のようにすべて九州鉄道の方法に準拠するというものであった。
 
豊州鉄道建設ニ付キ工事方法書
レール、ゲーヂ、及コンストラクション、ゲーヂ、ハ官設鉄道ヲ法トス
軌道築堤切取幅員及傾斜面勾配ハ九州鉄道ニ傚(なら)フ
レール重量ハ幹支線共毎ヤード四九ポンドトス
機関車、客車、貨車等凡テ九州鉄道ニ凖ズ
当社鉄道ハ九州鉄道ト接続スルヲ以テ、右ノ外詳細ノコトハ都(すべ)テ九州鉄道工事方法ニ準拠スルモノトス
当鉄道建設工事ノ竣成期限ハ本免状御下附ノ日ヨリ満五ケ年トス
明治廿三年三月 豊州鉄道発起人 惣代斎藤美知彦
        仝主任技術者  宮城島庄吉
(「鉄道院文書」第一〇門巻一八)

 
写真4 完成した豊州鉄道今川鉄橋(明治28年)
写真4 完成した豊州鉄道今川鉄橋(明治28年)

 工事完成間近の二八年七月一二日、油須原トンネル付近の高地開削中に、土砂が崩壊して一四人が死亡するという大事故が発生した。
 この不慮の惨事を乗り越え、いよいよ八月一五日、行橋-伊田間一六マイル四〇チェイン(二六・六キロメートル)が開通した。この時の行橋停車場の様子を新聞は次のように記している。
 
……此の停車場は即ち九鉄と豊鉄との共有に係る新築の大家屋にして、後ろに豊州鉄道会社の新建築正に竣成したるものあり、前は十余条の鉄軌を挟んで機関車庫、客車庫等の大建築物及び用水路水溜等の設けあり、会社は新築のもの未だ全落成せざるも停車場は既に開業の以前より専(もっぱ)ら其の準備を為したることとて、前面の空地に百尺の竿頭高く大旭旗を掲げ四方に無数の球灯を釣り、装飾万端人皆な整頓せり、場の内外には初運転の景況見んと遠近より来り集まるもの幾百万人、沿道数町の間老幼男女群集して宛(さな)から堵(かき)の如く錐(きり)を立つるの地たに余さゝる程なり、列車進んで停車場内に入らんとする頃より数発の煙火は爆然として沖天に轟き、博多音楽隊の一行は群衆の前に列して嚠喨(りゅうりょう)たる音楽を奏す、列車は煙火と奏楽に迎へられ場の中央に運転を止めたり
(「門司新報」明治二八年八月二〇日)

 
 開業時の時間表と乗客運賃は、表6のようであった。
 
表6 豊州鉄道株式会社 行橋-伊田間時刻表・料金表
伊田発香春発油須原発豊津発行橋着行橋発小倉着
     午前5時50分同 6時50分
午前7時22分同 7時30分同 7時51分同 8時22分同 8時35分同 8時45分同 9時50分
午前10時37分同 10時45分同 11時6分同 11時37分同 11時50分正午12時午後1時5分
午後5時2分同 5時10分同 5時31分同 6時2分同 6時15分同 6時25分同 7時30分
午後7時52分同 8時同 8時21分同 8時52分同 9時5分  
小倉発行橋着行橋発豊津発油須原発香春発伊田発
  午前5時20分同 5時35分同 6時10分同 6時27分同 6時33分
午前7時20分同 8時25分同 8時35分同 8時50分同 9時25分同 9時42分同 9時49分
午前11時25分午後12時30分同 12時40分同 12時55分同 1時30分同 1時47分同 1時53分
午後4時30分同 5時35分同 5時45分同 6時同 6時35分同 6時52分同 6時58分
午後9時同 10時5分     
伊田よりの下等賃金香春まで油須原まで豊津まで行橋まで小倉まで 
2銭7銭16銭20銭38銭 
但し中等は下等の5割増し、上等は下等の倍増