吉川兼光編『地殻を破つて』(吉永栄、昭和三年)は自治正義団が昭和天皇即位式(御大典)を記念して発行した部落問題論策集である。同書には、無産運動家(安部磯雄・杉山元治郎・布施辰治)、歴史家(喜田貞吉)、融和運動家(有馬頼寧・中村至道・下村春之助)、国家主義者(大川周明・安岡正篤・清水行之助)など多方面の著名人や、地域政治社会に影響力を持つ福岡県選出国会議員、県議会議員、元・前京都郡長、行橋警察署長、県視学、京都郡教育会長、在郷軍人会分会長などが寄稿している。自治正義団同人一九人の寄稿もあり、その論旨に特徴的なことは、部落改善運動を批判し水平運動への賛辞を送りつつ、「それでも差別側の国民は、皇室に忠義を致すものと云はれるか」、「昭和の聖代を吾等の協力で更に光りあらしめよ」と、「明治天皇御聖旨」(綱領)に依拠しながら差別行為・言辞に対する反省・謝罪を提起している点である。