翻刻・現代語訳

土方歳三書簡

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 寒中之砌弥御
 壮健可被為在御座奉
 恐悦候随而此方一同
 無事罷在候間乍恐
 御休意可被下候然者
 過廿一日松本捨介殿
 上京仕壬生旅宿江向
 参上如何之義有之候哉
 難斗依之一先
 下向為致候間帰宅
 よろしく奉願上候
 一久々御無音罷過何
 とも恐入候得共小子之
 筆信ニ而ハ京師形勢
 申上兼候間承り度
 折ながら此御無音
 御ゆるし可被下候
 乍末小嶋御両親様
 御初メ御一同様江よろしく
 被仰上可被下候何卒
 右之段上溝江も宜敷
 奉願上候一松平肥後守
 御預り新撰組浪士
 勢ひ日々相増候依之
 萬々松本氏より
 御承り可被下候先ハ
      恐々不備
 十一月日
    松平肥後守御預り
        土方歳三
 
 小嶋兄君
 尚々拙義共報国
 有志と目かけ
 婦人しとひ候事
 筆紙難尽先京
 二而ハ嶋原花君太夫
 天神一之祇園
 二而ハ所謂けいこ三
 人程有之北野二而ハ
 君菊小楽と申候
 まひこ大坂新町
 二而ハ若鶴太夫外
 弐三人も有之北ノ新地
 二而ハ沢山二而筆二而ハ
 難尽先ハ申入候
 報国の
 心ころを
 わするゝ
    婦人哉
  歳三如何しきよミ違ひ
 今上皇帝
 朝夕に民安
    かれと
 いのる身の
  心ころにかゝる
 沖津しらなみ
 
 一天下の栄勇
 有之候ハゝ早々
 御のほせ可被下候
       以上
 
【現代語訳】

寒中の頃、いよいよ
御壮健でおられ謹んでお慶び申し上げます。
したがって、私ども一同
無事に過ごしておりますので
ご安心ください。さて、
十一月廿一日に松本捨介殿が
上京され壬生の旅宿へ
参上されました。どのような考えで参られたのか
わからず、ひとまず
帰宅させましたので、
よろしくお願い申し上げます。
一つ、久々に御無音にうち過ぎ、何
とも恐縮ですが、私の
筆信(手紙)では、京師の形勢を
申し上げ兼ねますので、松本氏よりお聞きください。
折ながら、此御無音を
御許しください。
末筆ながら、小嶋御両親様を
初め、御一同様へよろしく
お伝えください。なにとぞ、
右の件、相州の上溝へも宜しく
お願い申し上げます。
一つ、松平肥後守御預りの新撰組浪士は
勢ひ日々相増しています。
これらのことも、詳しく松本氏より
御承り下さい。
先は、恐々不備
十一月日
    松平肥後守御預り
        土方歳三
 
小嶋兄君
尚々、私どもは報国の有志をめざしていますが、
婦人(女性)が我々を慕うことは、
手紙には、書き尽くせません。
先、京にては、嶋原の花君太夫
天神、一之、祇園にては、
いわゆる芸子が三人程います。
北野にては、君菊、小楽と申す
舞妓、大坂新町にては、若鶴太夫の外に
二、三人もおります。北の新地
にては沢山いますので筆では、
書き尽せません。先はお知らせします。
報国の
 心ころを
わするる
   婦人かな
 歳三如何かよみ違い
今上皇帝
朝夕に民
   安かれと
いのる身の
  心ころにかかる
沖津しらなみ
一つ、天下の英雄が
おられましたら、早々に
御上洛させてください。
          以上