二啓申上げ候、関東之珍説これ有り候えば
委敷御書贈りの程希い奉り候、以上
向暑の節御坐候えば
愈(いよいよ)御清昌賀上奉り候
然らば拙者留守宅の儀
相替わらず御厚情罷(まか)り成り万々
厚謝奉り候、偖(さて)未タ洛陽
穏成ざる事累卵の如ク
西方諸侯表は幕府貴ひ(たっとび)
裏には倒消セん事相醸シ
関東攘夷拒絶因循
仕り候より虚に乗じて天下囂然(ごうぜん)候て
内姦謀計させば勝テ算(かぞえ)難く
既ニ去ル三月中、嶋津三郎
義御内命を蒙り上京仕り候処
公武御合体と相見え候間
一両日滞留仕り直様(すぐさま)書置相残シ
別紙文面通り御坐候、然ル関
東の大小名御旗本衆国家
安危ヲ顧みず、唯々(ただただ)御下向
のみ差急ぎ過日水府(水戸)公
攘夷御名代として御下向遊ばされ
候え共、いつれの御沙汰御座無く候
亦一橋公、攘夷期限
拒絶、応接御君命承り
御東帰遊ばされ候処是以って
未タ拒絶決せず漸々
延引仕り候趣、これにより御届ヶ相成り
天朝より拒絶の応接如何(いかが)
と御挨拶これ有り然ルに
今般 大樹公醜夷
東討して御下向の儀、尾州
前公より御願い出シ相成り候処、
叡慮(えいりょ)叶わず由、未タ攘夷決せずして
下向相成り候は、君臣自然と
離隔姿ニも相成るべく由、然ルニ
大樹公御下向遊ばされ攘夷
応接遊ばされ由御坐候えば前々
水一両公 御東(到)着に相成り
候え共攘夷決せず左候へば
大樹公御発駕遊ばされ候共
万一拒絶延引ニ相成り候ば
終ニ違 勅ニも陥り候えば
其罪逃がたく候其虚ニ乗じて
内奸相袴(諮)り万一攘夷
の御 勅上薩長士え落手
いたし候ば速ニ勤王挙兵の籏
(あげ)候は勿論御坐候、然らば東西ニ
相分かり関東これあり無きが如く候
其後違 勅の罪糺明ニ
候えば則ち国乱相成り、終ニ醜
慮策ニ陥り申すべくと存じ奉り候
其時ニ至り先(まず)悔むにあらず候共
先(さきん)ぜず右ニ付去ル廿五日同志
一同決死 朝の学修(習)院、
閣老板倉殿、守護職
松平肥後守殿え右三通別
紙之通り差上げ奉り、方今
形勢切迫仕り次第義論
逢ひ夫より 大樹公ニも五十日
間御滞京極り候、仍って攘夷
応接上使の義未タ御沙汰
仰出され御坐無く候、左候えば
亦々明日ニも如何相成り候哉
計り難く、日々拙者共心配
罷り在り候、就ては追々尽忠
報国の有志の輩相募り
候え共未タ浪士取扱い取締
役等出来申さず、これにより水府
脱藩士下村嗣司事改め芹澤
鴨と申す仁、拙者両人にて同志
隊長に相成り居り、既ニ同志
の内失策等仕出し候者は速ニ
天誅ヲ加え候、去る頃同志殿内
義雄と申す仁、去る四月中四条
橋上にて打果シ候、亦家里
次郎申者大坂おゐて切腹に
いたし候 大樹公御下坂
の節は願の如く御警衛御供
仰付けられ亦御帰京の節
御供にて五月十一日帰京いたし候
且、去ル廿日夜安藤石見守
申す御医者え侍体の者弐拾人
程押込候得共、右者逃去り
無事の由、廿一日暁儒者
家里新太郎申者三条川
原え梟首致され候、尤右家里
次郎兄に御座候、廿二日夜
五ツ時朝、御還掛国事
掛の姉小路殿御所内にて
殺害ニ相成り候、右狼藉の者
同廿六日会津公手にて三人
召捕り相成り候、壱人は自殺仕り候、
尤薩摩の由御座候、夫是
よって洛陽穏かならず候事
扨、亦関東え下向仕り候、浪士共
去ル四月中尽忠報国
の名義ヲ飾り市中動揺
致させニ付夫々召捕ニ相成候由
承知仕り候清川八郎義は
芝赤羽根にて打果て候趣、伝承
仕り候、尤も右清川八良(郎)、村上
俊五郎、石坂周造、木村
久之丞、齋藤熊三郎、白井
庄兵衛右六人ハ洛陽
おゐて梟首致すべくと周旋
仕り候処、折り悪しく誅戮を加えず候
右の者儀ハ道中より拙者
共違論御座候、偖拙者
儀、長く滞京罷り在り候間
諸事留守宅御厚情に
相成り有がたく万謝奉り候、老父
義は別て御厄介相成り候事
と存じ奉り候、且稽古之義
も何卒宜しく御世話伏して
希い奉り候、就ては当春中ハ
撃剣供に学び其節(切)情は
山谷を隔て罷り在り候共聊(いささか)忘却
仕らず候、国事ニ暇これ有り
候節は思い出し只々嘆息のみ
然りといえども拙者関東発足
の時々より忠は 天朝ニ奉シ
躬ハ 幕府致シ候は素より
僕志願候、尤心懸り候は
老父のみ併ながら、古人の語に
忠孝全くせず哉今思当り
候、他見忍び血涙催し候迄ニ
御坐候、万一志願相叶い候へば
命も短夕迫り申すべく候任の
地ニ棄命仕り候共、旅魂
旧きに到り、厚謝奉るべく候これにより
僕胸中探く御賢察の程
伏して希い奉り候、方今形勢
追々指迫り候次第申上度候得共
素より愚知短才の拙ゆへ
筆紙を以って尽くし難く宜しく御推察
成し下され度候、憚りながら御稽古
御一統衆え然かるべき様、御鶴声
願い上げ候、艸々不備
近藤勇昌宜(花押)
萩原多賀次郎 様 六月十七日夕柳丁へ着
即刻被見写し取
同十九日舟板横丁へ
順達
寺尾安次郎 様
蔭山新之丞 様
佐藤彦五郎 様
嶋崎勇三郎 様
安藤傳十郎 様
田中恒太郎 様
青柳勇五郎 様
萩原 糺 様 八月廿九日着
小嶋鹿之助 様
萩原 半蔵 様
宮川音五郎 様 去廿二日夕刻着
翌廿三日下染屋へ順達
中嶋治郎兵衛 様
粕谷 新助 様 廿三日大沢ゟ
受取早々
常右衛門え順達
谷合 弥七 様
速水庄三郎 様
筑紫正一郎 様
関田庄太郎 様 廿四日日野宿へ
順達
右の御方様え御順達の程伏して希い奉り候、以上