一 稽古有文館蔵本の書誌

河本家稽古有文館蔵『山下水』は写本一軸、箱入の巻子本である。白色の包紙、および箱書き(表)ともに「宝山院様御内上様/養法院御毫山下水」と記される。包紙には「木佐/氏」の朱印あり。箱書きの下部分に「壱/ほ」と書かれた貼紙が存する。また箱書き(裏)には「出雲侯二世宝山院殿綱隆公御國御前/養法院尼公御筆軸物/山下水」と記される。さらに箱小口にも貼紙があり、破損が甚だしいものの「■/養法院/■毫山下■/■■番」の文字が辛うじて判読できる。この小口の貼紙にも包紙と同じ朱印がみられる。伝来の過程を示すものと思われるが、判然としない。島根県出雲市の本木佐家資料が平田本陣記念館に所蔵されており、その中には出雲松平家歴代藩主との交流が深かったことを示す書簡・掛物・短冊などが含まれる。「木佐/氏」の印が本木佐家のものであるならば、同家と河本家には昭和年間に姻戚関係があるので、このことが伝来に何らかの影響を与えているかもしれない。但し同記念館所蔵資料の中に、この朱印と一致するものは見出せなかった。
表紙は、青鈍色の地に金泥で遠山、家屋、草花が描かれる。外題はない。見返しは、雲霞に金の切箔を散らしたもの。表紙に続いて斐紙八枚継ぎ。縦二七・〇㎝、横七一五・五㎝(表紙二二・七㎝、第一紙一一二・二㎝、第二紙一三八・四㎝、第三紙七六・二㎝、第四紙五六・四㎝、第五紙一一九・五㎝、第六紙六五・六㎝、第七紙六七・〇㎝、第八紙五七・五㎝)。表紙に少々破れがみられるものの、虫損等は少なく、保存状態は良好である。第一紙に内題「山下水」とある。和歌は一首二~四行書きである。